一瞬その光景が信じられなくて夢かと思った。なんで、こんなところに、彼が、いるのだろうか。金色の聖衣はアテナの聖闘士ではなく海皇ポセイドンの海闘士のものであった。…仮面越しでも彼は、カノンは私だと気付いたようで構えをしたまま固まっていた。

「な、んでお前が聖闘士に…」
「…守るものがあったからよ」

彼女の発言をゆっくり咀嚼する。そうか彼女には大切な人ができたのか。俺はあのスニオン岬の前でずっと時は止まっていたが彼女は、美々はしっかりと進んでいたらしい。…馬鹿らしい、自分が今何のために戦っているのか。自分のため、兄貴のため、世界のため、美々のため。ようやく最後にしっくりときた答えに辿り着いた。……小宇宙が辺りに漂う、これがあいつの小宇宙か…。

「強い、ようだな」
「カノンには負けるわ。だから私は戦いたくない」
「…敵を前にして逃げるのか?」
「………敵?そんなの何処にいるのかしら」


思わず構えを解きじっと彼女を見つめた。仮面越しだが分かった。泣いて、いる。

「あ、あああいたかったの、わたし…ずっとかのんのこと、しし、しんぱいで…っ!このちからだって、あ、あなたのために…ちまみれになって…うっ……てに、いれたのよ…ぉ!」
「美々……お前…」

バッと駆け寄り飛び込んできた美々を突き放すことができなかった。何度も夢見た温もりが今、腕の中にある。でも彼女に触れることが許されるのであろうか。回そうとした腕が宙で止まった。

「カノン、カノン…っ」
「…美々」

弱々しく俺の名を何回も呼び続ける美々。我慢できずにきつく、きつく抱きしめた。時が止まっていたのは俺だけではなかったようだ。



を率いるのはなる君