大学からの帰り道、私は見慣れた近所の風景を目に入れつつも耳元で鳴る音楽に集中していた。…ベースの音、かっこいい。こんな風に弾けるよう帰ったら練習しなきゃ!無意識に拳をぐっと握った。次の角を曲がれば家はすぐそこ、なはずだった。目の前は真っ暗になり、辺りに人の気配は皆無だった。不安になって耳からイヤホンを抜いてポケットにしまう。下を向いて注意を逸らした瞬間にすぐ傍から声がした。

「嗚呼やっと見つけた」
「俺達が愛でるべき相手を」
「人間だが…構うものか」
「漸く逢えたのだからな」

後ろから、テノールの声が響いた。振り向くと法衣…というのだろうか、漆黒の服を来た麗しい容姿をした双子の青年が立っていた。額には星とヘキサグラム…。非現実的すぎてぽけっと2人を凝視していると髪色が黒い方がくすくすと笑い出した。

「まだ思い出せないのか」
「仕方ないだろうタナトス、汚い俗世に居たのだ」
「確かにな。だがヒュプノスよ、どうする?」

黒髪はタナトス、金髪はヒュプノスというらしい。……私、こんな人たち知らないんだけどなあ。

「あの…っ」
「どうした」
「ひ…人違いでは?」
「「違う」」

2人のハモり思わずにため息を出してしまった。全く、こういうときは仲がいいんだから。………え、何急に、そんなこと私知ってるの?

「…今の名前はなんというのだ?」
「え…あ、美々です…」
「美々か…美々、美々」

タナトス、の方が嬉しそうに何度も私の名前を呟く。ヒュプノスの方も口元を綻ばせている。

「お前はこの双子神、」
「タナトスと」
「ヒュプノスに」
「選ばれた愛し子だ」

いつの間にかすぐ脇に2人は居た。顔を上げようとする前に両頬にちゅ、とキス、さ、れ、た。驚いて声を出す暇もなくふわっと抱っこされた。属にいう、お姫様抱っこで…。

「えっ、ちょ、何して…!」
「決まっている、我らの元にだ」
「タナトス、昨日ジャンケンで俺が抱っこすると決めただろう」
「五月蝿い、したもん勝ちだ」

ジャンケン、っておい…。足をばたつかせても大の男の力には敵わず、暗闇ばかり広がる不思議な穴に吸い込まれるように入っていくことになった。ふと彼らの着ている服が変わっていることに気が付いたが落下しているうちにそんなことどうでもよくなった。


***


どうやら気絶していたようだ。目を開けると白を基調にした部屋のベッドに寝ていた。身体を起こすと柔らかいブランケットが胸元を滑った。あ、れ……服がさっきと違う!?


「嗚呼、私が着替えさせた」
「っ?!?!えっと…ヒュプノスさん…?」
「ヒュプでいい。早く思い出してくれよ」


ぽんぽんと頭を撫でて部屋を出ていった。入れ違いでタナトスさんが入ってきた。


「俺はタナ、と呼べ。…ほら、食事を用意した」
「ありがとう…ございます」
「……お前は神だったのだ、神話の時代に」

唐突にそう言われてぽかん、と何を言ってるのか分からなかった、理解できなかった。

「…生まれ変わり?」
「神の記憶、意思を思い出すはずだ」

それを我らは待っている。そう言い残してタナト…タナも消えた。たくさんの不安、疑問を残して。

「私…必要とされてるの?」


意識に反して手を伸ばして掴んだものは幸か不幸か、私の日常を180°変えるものとなった。




コミック買ったらやってみたい連載の序章です^^