感覚が消えていく中で私は目の前に居るであろう仏陀の生まれ変わり、最も神に近い男と呼ばれるシャカに手を伸ばした。幸いなことに痛みは感覚の消失からか感じない。しかし私の手を誰か――シャカが触れているのは何故か分かった。まだ1つしか五感が消えてないはずなのに、もう苦しい。

「馬鹿な冥闘士だ、このシャカに戦いを挑むとは」

触れられている手が彼の口元まで上げられ、ペろりと指先が舌で舐め上げられる。突然の行動にかあっと頬に熱が集まった。全く、戦いの途中なのに…!黄金聖闘士ってのは私たち冥闘士をナメてんの!?

「ふむ…絶体絶命なのにその攻撃的な目…気に入った」

そう言ってそっと開かれたシャカの瞳は深い青、思わず魅入ってしまった。全てを飲み込んでしまいそうで私は目を逸らせなかった。視線は交わったまま、会話は続く。

「…私を、どうするの…」
「殺しはせん、だが冥王ハーデスの手先には戻さぬ」
「!!」

それは、私にハーデス様を裏切れと言っているに等しかった。屈辱、のような思いがふつふつと沸いたが、よく考えたらもしかしたらこれ以上戦わなくてよくなるのかもしれない。なんて甘い考えが私を支配した。…だって、ただの学生だった私を無理矢理冥界に連れてきて戦え、なんて無理がありすぎる。だから目の前の男の言葉に乗りたかった。でも、それは死を意味するかもしれない。私の考えていることが想像ついたのか、サディスティックに唇の片端だけ上に上げて笑みを象る。

「心配するな。私は君を気に入ったんだ、悪いようにはせん。…ただ」


お前に終焉など与えてやらない

私はこの男に囚われたようだ。