「ど…どういうこと?」
「パッセージリングが耐用年数限界に到達していると操作盤に警告が出ていました。セフィロトが暴走しているようなのでその影響でしょう」
「セフィロトが暴走!?何それ!?」
「待ってくれ!パッセージリングが壊れるって…まさかそのときには…」
ガイの嫌な予感は当たっていた。イオンが暗い表情のままその先を告げる。
「セフィロトツリーそのものが消える…。外殻大地も魔界に浮かぶ大地もそのすべてが落ち何もかもが魔界の泥の海に飲み込まれるでしょう」
「そんなイオン様ぁ!クロエも何とか出来ないの!?」
いくつもの視線がこちらに向かうが私に手立てはない。
「もしまたセフィロトツリーを作れたとしても…簡単に作れるものじゃないから作ってる間に耐え切れなくなるわね」
「そ、そんなぁ…!」
アニスの泣きそうな声に、シンとその場は静まり返った。
「セフィロトの暴走は預言には詠まれていないの…?いえ…詠まれていたとしてもお祖父さまも知らない機密情報なんだわ。これ以上…どうしたら…」
「…手がかりがあるとするならあそこしかない…行きましょう、ローレライ教団ダアトへ!」
イオンの言葉に私は驚いて俯いていた顔を上げた。あそこに、帰るの…?私を見てイオンは皆に一旦2人きりにしてくれと頼んだ。2人になるとイオンは私の手を握り安心させるように笑った。
「大丈夫です、クロエには変装してもらいます」
「で、でも…」
「貴女は縛られてはいけない存在なんです、僕がさせませんから」
イオンの真剣な瞳に思わず頷いてしまうクロエだった。イオンなら、と信じようとしてしまう自分が居たのだ。
「――先程、話しておきたいことがあると言いましたね?」
「はい…どうしたの、イオン」
「クロエ、僕は―――――」
***
「秘預言(クローズドスコア)?」
「通常――預言は教団により機密事項に属するものとそうでないものに編纂され、後者のみが一般市民へと公開される決まりです」
「機密事項?」
「大勢の人がかかわるような重大な預言は混乱を招くから…例えば死や戦争、飢餓に伝染病の類いね」
イオンとの2人だけの会話が終わりパーティーメンバーを部屋へと入れた。ジェイドの探る瞳、アニスの教えて教えて攻撃から逃れこれからの行動を話し合った。途中でルークの質問タイムになった。残りをルークの疑問にクロエが答えを付け加える。この頃のルークは知りたいこと、知らなかったことをちゃんと質問し、理解しようと試みている。これがあの我が儘放題だったお坊ちゃんと同一人物だったなんて…人は、変われるんだ。
「そう、影響力の大きすぎる重大な預言を教団は秘預言としています。セフィロトの暴走が預言どおりならば秘預言にはそのことが印されているはずです」
「――ん?イオンでも知らない預言があるのか?」
「…ええ、僕は今まで秘預言を確認したことがなかったんです」
困ったような笑みを浮かべるイオン、アニスが驚きの声をあげた。導師が重要なことを確認しないなんて…そんなはず、あるわけないから。クロエは訳を知っているから黙り込んだ。
「イオン様、ダアトへ戻ればモースは必ず接触してきますよ?…いいのですか?」
「秘預言を知っていれば…僕はルークと出会ったときすぐに何者かわかったでしょう。アクゼリュスのことも回避できたかもしれない―――行きましょう、いつまでも逃げ回っているわけにはいきません!」
「……貴女も大丈夫ですか?」
「イオンの心のままに」
まだ時間があるので個人行動が許された。ルークはティアと、アニスはイオンと何処かへ行った。ナタリアとガイはその場に残った。クロエはジェイドに捕まり部屋の隅に連れてかれた。
「イオン様とはどんな話を?」
「…2人だけの、秘密です」
「…」
仕方ない、とばかりに肩を竦めてジェイドは私を解放した。それから数時間してアルビオールは宗教自治区ダアトへと到着した。