集合場所に戻ると私以外は先に戻っていたようだ。私が戻ってきたのでアルビオールは魔界にあるシュレーの丘の地下にあるパッセージリングへと向かった。機内の隅で座ってるとそわそわとアニスが私をチラ見してきた。――アニスだけでない。他のメンバーも私を気にしているようだ。はあ、とため息をつく。


「知りたいなら聞けば教えるよ」

「……お祖父様とは、何の話をしてたの?」

「私をこの外殻降下に参加させたくなかったみたい」

「お祖父様がそんなことを…。それはやっぱり…」

「クロエがユリアの生まれ変わりだから〜?」


アニスの言葉に頷く。間違ってはいない、ただまだ理由があるが。ジェイドは珍しく黙ったまま思案している。重たい空気を引きずったまま一行は魔界、シュレーの丘に辿り着いた。



***



アクゼリュスにあったものと同じパッセージリングが置かれた地下にたどり着くとイオンがその前に置いてあった制御盤を覗きこんだ。


「これは…ユリア式封咒がそのままだ!」

「え?」

「ユリア式封咒はセフィロトを護る三重の封咒のうちもっとも内側にあるものよ」


一番外側のダアト式封咒はイオンが、真ん中のアルバート式はなぜかアクゼリュスのパッセージリングの消滅とともに解咒されている。


「これは…残念ながら僕の力でも解くことは…」

「……なら私ね」

「そっか!ユリアの生まれ変わりのクロエなら…!」


複雑な笑みを浮かべつつも制御盤に近付き手を伸ばすと光と共にパッセージリングが起動した。それと同時に薄汚い空気のようなものが身体に染み込んだ。フラリと意識が飛びそうになる。


「クロエ、大丈夫ですか?」

「…はい、早く制御を…!」

「分かりました」


ジェイドはパッセージリングを見る。文字が複雑な譜陣に書き込まれているが…、いくつか不必要な要素があった。きっと、これがヴァンが操作した所だろう。


「譜陣へ真新しい暗号が書き込まれている…。ルーク、これからあなたの超振動で暗号を強制的に書きかえてもらいますよ」

「この操作をしたらパッセージリングは通常の操作で制御できなくなる…つまり、ルークだけしか扱えなくなるの」

「指示は私が出します。無事に大地を降下させましょう」


ルークがそれに頷き一歩前に出て手をセフィロトに向けた。ジェイドが後ろにつき、私たちはそれを見守る。

「なあ、クロエにこれは動かせないのか?」

「……超振動の力は私は持っていないの」

「えっ!じゃあユリアも超振動はなかったの?」


ガイの質問に答えるとアニスが声を上げた。そう、ユリアには超振動の力はない。ただの天才譜術士。ちなみに第七音素を発見したのはサザンクロス博士――ユリアの先生だ。

「なんか意外〜ユリアって何でも出来そうなイメージだったしぃ」

「……人間だもの、完璧な存在なんていない。醜い部分も、隠したい部分もある」


ぴくり、とガイとアニスが反応した。少し俯いたアニス、口を開きかけるがルークがよろけたのを見て口をつむんでしまった。


「ご…ごめん目眩が…。だ…大丈夫だから!」

「精密な作業で集中力が持たないのでしょう。休みますか?」

「でも…急がないと…」


頭を押さえながらルークは息を吐く。それをみたナタリアが傍に近寄った。ふわりと優しいナタリアの第七音素がルークへと流れる。ぱちくり、と先ほどより顔色のよくなったルークを見て心配そうだったミュウが驚いた。


「みゅ!?」

「あれ?目眩が消えた!」

「お忘れですの?私はこれでも治癒師(ヒーラー)ですのよ。私にも手伝わせてください!」


それならもう一度、と手を前に出すルーク。その顔に疲れは見えずしっかり前を見据えていた。その傍にはナタリアとジェイド。ここからが本番だから、気は抜けない。崩落しているセントビナーを魔界の海に降下させるためだ。


「さきほどの第三セフィロトに今度は命令を書き込みます。ツリー上昇、速度三倍」


ここからは第七音素を使えるティアとナタリアと私、それからイオンが残ることになった。ガイとアニス、ミュウはそっと外に出た。それから何時間もルークは超振動を使い続けた。ナタリアに代わり私やティアも回復を手伝う。…もどかしい、この作業は無意味だから。でも、不必要なことは一切ないのだ、それが積み重なって物語は紡がれるのだから。


「クロエ…、この作業が終わったら聞きたいことがあります」

「…イオン…。分かった」

「僕は逃げていた、でもルークを見ていて決心しました。向き合わなければいけないんです」


…もしかして。その時ジェイドの焦った声が響いた。慌ててパッセージリングの操作盤を見ると耐用年数が限界だと警告が出ていた。


「そ、そんな…!」

「私たちは一体どうすればいいの…!」

「……とりあえず、軟着陸の命令を送り込みましょう。崩壊の時間を引き延ばさねばなりません…」


ジェイドも少し強張った表情でルークに作業の続行を促した。それから1時間ほどして漸く作業は終わった。外に出ると入口の左右にアニスとミュウ、ガイが待ちぼうけていた。


「ルーク!みんな!どうだったの!?」


俯いたままのルークを見てアニスはまさか失敗したのではと近くにいたティアを縋るように見つめた。


「…降下作業はうまくいったわ。今頃セントビナーは魔界へ到着しているはずよ」

「ルグニカ平野やほかの街にも同じ命令を送り込みました」

「勝手に安全に魔界に軟着陸するよ」

「やったじゃないですか!」

喜ぶアニスたちの横でドン!とルークが拳を壁に叩きつけた。悔しそうに声を絞り出す。


「パッセージリングはもうすぐ壊れちまうんだ!俺たちのしたことはムダだったんだよ!」



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