「カ、カーティス大佐!前方に漆黒の翼と思われる―――」
「漆黒の翼!?」
「おや、何かあるんですかクロエ?」
「いっ、いいいいいいいいいえ!ハッ、早く追いかけましょーよ、逃げられちゃいますよ!」
怪しそうに私を見つめるジェイド、でも諦めたのか部下に追尾するようにと命じた。丁度エンゲーブ方面に向かってるし、タルタロスが動く理由にもなる。私たちはモースにも、キムラスカにも怪しまれないようにタルタロスをできるだけキムラスカに近付ける必要があった。移動時間の短縮、イオンの身体を考慮しての事だ。
「あ、クロエー後でお話がありますからねー」
やっぱ、鬼だジェイドめ…。
そう思っている間にも漆黒の翼と思われる馬車のようなものとタルタロスの距離は縮まっていく。向こうに辻馬車が見えた。ジェイドが慌てて伝声管を掴んだ。
「そこの辻馬車道を空けなさい!!巻き込まれますよ!!」
「(あの中にルークとティアが居るんだよね…)」
慌てて間一髪で避けた辻馬車の中に居る筈である、近い未来一緒に旅する仲間をジェイドの後ろで想う。すぐに、会えるよ。
「ジェイド師団長!!敵は橋を渡り終え爆薬を放出しています」
「おやおや…橋を落として逃げるつもりですか」
「フォンスロット起動確認!!」
「敵第五音素(フィフスフォニム)による譜術を発動!!」
ノワール姉さんはやることが凄すぎ…というか大袈裟すぎる。私が溜め息をつくのと同時にジェイドが目の前の画面に手を翳した。画面が切り替わりタルタロスに指令を送る。
「仕方ありませんね…タルタロス緊急停止、譜術障壁起動」
「了解、タルタロス緊急停止!譜術障壁起動!」
「橋が爆発します!」
兵士がそう言った途端に爆発音と揺れがタルタロスを襲った。突然すぎて私は思わず目の前のジェイドの背中にしがみついた、のはよかったけど……。
「あ、の…なんで真正面で抱き合ってるんですか私たち」
「おやおや恥ずかしいんですか?」
いつの間にか振り返って自分の胸の中にクロエを閉じ込めたジェイドに兵士たちは苦笑いをした。あの、敵国だけでなく国内でも畏れられている死霊使いが1人の少女にお熱なのは前々から承知済みであるからだった。
「また逃しましたか…残念。ひとまず撤退ですね。………それとクロエ、私とちょ〜っとお話をしましょうか」
「「「「!?!?!?」」」」
兵士を含め全員の背筋が凍った。