「ジェイド!!」

「無事で何より。さああとは逃げるだけですよ」


ようやく(邪魔な)ディストを退け2人はアルビオールに向かって走り出した。先程ディストに(無駄な)体力を使ったためか少し身体が重い。ルークはさっきから気になっていたことを口にした。


「…なぁジェイドって封呪術(アンチフォンスロット)かけられてるんじゃなかったのか?」

「ええそうですよ。だいぶ解除は進んでいるのですがね…本調子なら術の発動にあそこまで時間を食わずに済んだものを…」

「は…はは(化け物かこいつ…!)」


いつもなら失礼な事を考えるとすぐに察知し黒い笑みを浮かべるジェイドだが、何やら気難し気に何かを考えていた。ルークはジェイドの名を呼ぶと、歯切れ悪そうに口を開いた。


「…先程の術、私だけでなく他の術士の力も上乗せされていました。」

「他に術をかけた奴がいたのか!?え、でも…」

「えぇ…おかしい。私より後に術を発動させて同じタイミングで攻撃を仕掛けるなんて…」

どんな技かですら見極めるのは難しいのにそれを読み取り、ましてや同じタイミングで、まるで自分が術をかけたのをバレないようにする高度な技術…。それにいつもよりかは遅い術の発動ではあるが常人より早いジェイドの術の展開に合わせるとは…。まるで、詠唱を抜かしたようだ。思い当たる人物は1人。だが、しかし彼女は……。


「ルーク!!大佐!!」
「住民たちは将軍の誘導でエンゲーブへ向かいましたわ」
「よかった!俺たちも急ごうぜ!」


急いで乗り込むとノエルが操縦桿を操りアルビオールは空へと飛び立った。一先ず安心、そう思った矢先に激しい揺れが機体後方からした。パーティメンバーで駆け付けるとぽっかりと間障壁、それから気絶している女がいた。ミディアムの茶髪が外からの風でバサバサと靡いている。そんなことは気にしていないのかディストは執念深くイオンを出せと喚いた。


「計画が果たされればそう――彼女にさえ会えばジェイドはあの頃の彼に戻れるのです!!」

「おまえとジェイドの間に何があったのか知んねーけどこれだけは俺にもわかるぞ。ジェイドはもうおまえの言うようなジェイドじゃない!おまえとジェイドは違う!!」


ルークはそう叫びながらディストのロボットに飛び乗り操縦桿を動かそうとした。急な彼の行動に驚く間もなく、機械のアームがアルビオールから離れた。ティアは一緒に落ちてくルークの名を叫んだ。誰もがダメだ、そう思った横を何か巨大なモノが通り過ぎた。アニスのトクナガだった。間一髪でルークを引き戻してアルビオールはスピードを上げた。


「ちょっと!!死んだらどーするの!?」

「アニスが助けてくれたじゃんか」

「でなきゃどーなってたと思ってんの!!」

「よかった…これであとはグランコクマへ向かうだけね…」


一息ついたティアはふと穴の開いたアルビオールから下を見た。すぐさま衝撃が走った。――戦争が、始まっている。アニスとルークも顔を歪ませて下を覗いた。ジェイドだけはやはり、という顔で眼鏡を上げた。


「…そうか…これが兄さんの狙いだったんだわ…!」

「え…」

「セントビナーが崩落をはじめた今…ルグニカ平野もほどなく落ちる!このままでは両軍が全滅するわ!!」


ティアの言葉は正しかった。途方もないスケールの大きい計画にアニスはくらくらした。…自分は…この計画に加担しているのだろうか。分からない。そういえば、とアニスは先程ディストが壁を壊したおかげで気絶した少女の元に近寄った。顔は下を向いている。見たこともない服装に興味を持った。よいしょと楽な姿勢にさせるために仰向けにさせる。そこには忘れもしない見覚えのある顔があった。


「あああああああ!!!!!」

アニスの絶叫にルークとティア、ジェイドが何事かと近寄ってきた。


「たっ、大佐!クロエですっ!!」

「なんだって!?」
「クロエ!?」
「生きていたのね!」


急いで3人が顔を覗き込むとやはりクロエが眠るように気絶していた。アクゼリュスで最後に見た時は長かった髪は肩程にまで切られており、腰には見たこともないレイピアが納められていた。本当に本人なのだろうか。ヒールをかけるティアの横に座り彼女の肩を揺らした。


「クロエ…起きなさいクロエ!」

「無理矢理は駄目です大佐!」

「…んっ、あ……ジェ…イド?」


懐かしい声に身体が震えた。怒りなどではない。安堵からの震えだった。思わずまだ力の入らないクロエの体をギュッと抱きしめた。周りからは非難するような声があがるがそんなことはどうでもいい。今、クロエに触れていることが重要なんだ。クロエは動かしづらい腕をそっとジェイドの背中に回してぽんぽんと叩いた。その優しい手とは反対にクロエの顔は歪んでいた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -