私は、後悔だらけしているみたいだ。走り出した私は街へとエミリオの姿を捜した。所々に屋敷のメイドを見つけたが、そちらも見つからないようだった。私はダリルシェイド中を回ったが見つからなかった。街の入口に腰掛けて休憩をとっていると影がかかった。


「やっぱりあの時の!久しぶりですねえ」

「え…あ、森でモンスターに襲われてた…」

「ジャックといいます…何かお困りで?私なんかでよければ」

どうやらお礼、をしたいのだろう。


「大丈夫、ちょっと少年を捜してるだけだから…」

「もしかして、ヒューゴ様のところの坊ちゃんですか?それならさっき見ましたよ」


思わぬ情報に立ち上がって本当か!と確認してしまった。いつの間にか両手はジャックさんの胸元をぐわんぐわんと引っ張っていた。苦しそうな声で少し前にな…と話し出した。


「あんたに助けられた森の近くには崖があってな…そこに行く道で見かけたよ」

「崖……、ありがとう!今から行ってみるよ!」


ジャックさんにお礼を言って私は一旦屋敷に戻った。エミリオを見かけた人がいると報告をして、この前任務で乗った馬を借りた。ひらりと飛び乗ってすぐに出発させた。……夕方までには、連れ帰らなきゃ。



***


私は気付いていた。本当はオールドラントに未練があることを。ジェイドさんやルーク、それに皆とちゃんと話がしたい。そんな思いから使う譜術がジェイドさんのものばかりになったんだと思う。そんな弱い自分に吐き気がする。でも、この世界に来て、私は大切なものを知った。仲間の大切さ、私は不幸じゃなかったこと。まだ、変えられる。驕っているわけではない。本心から世界の幸せを願っているのだ。その前に、私にはすべきことがある。―――エミリオ。君も私には大切な人なんだよ。こんな最低な私をあんなに慕ってくれて…。否本当は違うのかもしれない。でも私は嬉しかった。


崖に続く道にエミリオはいなかった。まさか…落ちてしまった!?慌てて下を覗くも何も見えない。ってことは…ここじゃない?私は元来た道を戻ってみた。途中で道が二岐になっていた。…気付かなかった。どうやらこちら側からじゃないと見えない位置に道があったようだ。……もしかして、エミリオも…。私は迷うことなくその道を辿った。すぐにこちらも崖に出た。さっきと違うのは、崖の一歩手前に大きな木が生えていたこと。ほんの少しだけ、ソイルの木に似ている。その根本に捜していた人物が寄り掛かっていた。


「エミリオ…」

「クロエ…」

「さぁ帰ろう…皆待って――」


急にエミリオがシャルを抜いた。刃を私に向けて、憎々しそうに睨んできた。


「待っているだと…?ふざけるな、誰も僕のことを待っていないじゃないか」

『坊ちゃん…っ!』

「黙れシャル!!そうじゃないか!約束を破った奴に言われたくない…っ」


言い返そうとしたけど思わず言葉を詰まらせてしまった。エミリオは、泣いていた。紫水晶のような瞳からぽろぽろと涙がとめどなく溢れる。それを拭こうとも隠そうともせず、エミリオは私に向かって吠えた。


「もううんざりなんだ!僕は、僕は…っ」


私はもう潮時だと思った。レイピアを引き抜きながら私はエミリオをしっかり見つめた。これがきっと、最後だから…。


「よく聞いてエミリオ」

「なんなんだ急に…」

「俺…ううん、私…きっとこれが最後な気がするから…」


わた、し?とエミリオが思わず口にした。微笑みながら私は女だと告げた。瞳を見開かせて彼はシャルを持つ腕を震えさせた。


「騙して、たのか…?」

「そんなつもりじゃなかった!でも、そうせざるを得なかった…っ、エミリオ!?」

「信じて、たのに…」


鼻先をシャルが掠めた。バックステップでそれをかわした。すぐに攻撃を仕掛けてくるエミリオ。皮肉だ、辛い状況を作ったのは私だ。私が、エミリオを鍛えた。強くなってくれたのは嬉しい、けど今の状況ではそれが仇となってる。


「はァ…、はぁ…くっ…」

「…っ、はっ…」


対峙したまま私たちは剣を向け合った。なんで、こんな事に…。悲しい。自分の頬に涙が伝うのが分かった。――そうか、ヒューゴはこれを狙ってたのか。私たちの仲を裂くために。


「――っ!」


激痛。こんなっ、時に限って…!圧迫感が胸を締め付ける。フラリとよろけた所をエミリオが見逃すはずなかった。ロックブレイクが私を襲う。なんとか避ける事はできた。でも私は忘れていた、ここは崖だったこと。


「、あ…」

「え、……あ」


まるでスローモーションだった。ほんの一瞬目があった。私にとってもエミリオとっても、予想外のことだった。手が伸ばされた、手を伸ばした。でも触れ合うことは叶わず、私の身体は重力に従うように下へと落下する。ふと思い出したのはアクゼリュス崩壊のあの時。無意識のうちに譜歌を口ずさんでいた。意識が、無くなる。



***


僕は思わぬ出来事に手を伸ばしたまま、固まってしまった。『坊ちゃん、クロエは…クロエはっ!?』とシャルは慌てているのが伝わってきた。覗き込んだ崖の底はよく見えない。遠くから誰かがやってくる音が聞こえて振り向くと、マリアンをはじめとするメイドたちや兵士がいた。


「エミリオ様っ!」
「ご無事ですか!?」
「お怪我はないですか?」
「良かったです…っ」

「マリアン…」

「エミリオ、クロエは?会わなかった?」


僕はその問いを一番恐れていた。ガタガタと奥の暗闇を指差した。皆の視線がそちらに向かうにつれ、真っ青になった。


「そ、んな…落ちて、しまったのですか…」

「…っ、」

「クロエ!クロエーーーーーーーーーっ!!!」


マリアンの悲痛な叫びが夜の渓谷に響いた。エミリオは今さらながら失ったものの大切さ、自分の愚かさに気付いた。でも不思議とクロエがまだ生きているようなした。泣くマリアンの腕の中でぼんやりとそう思った。






Lost My Girl Fin
2011 02 04
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Mirei


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