エミリオは夕食のときに居ないクロエを不審に思ったが、メイドも何も言わないので先に食べて寝てしまったのだろうと軽く思っていた。意外と気を使ってくるクロエの事だ、明日の剣技大会の為だと隠れているのだろう。次の日の朝も会わなかった。そのまま大会の時間になりシャルではない、普通の剣を腰にさした。
「……もう、来てるのかな」
『クロエにいいとこ見せましょうね坊ちゃん!』
シャルティエを参加者の待機場所に置いてエミリオは舞台である競技場に足を踏み入れた。きらきらと太陽が輝き、雲ひとつない空。目の前には気弱そうな対戦相手。………優勝、してやる。今までの努力を見てもらうんだ。
***
勿論優勝トロフィーを手にしてエミリオは屋敷に戻った。シャルは嬉しそうにチカチカとコアを光らせエミリオを祝福した。フと笑みが零れる。扉をあけるとマリアンを含めメイドたちが待ち構えていた。
「お帰りなさいませエミリオ様」
「ご優勝おめでとうございます」
「今日のご夕食は豪華にしましょう」
「トロフィーをお預かりしますね」
「おい、クロエは?」
そう問うと気まずそうにメイドたちが目を合わせた。痛い沈黙の中をマリアンがおそるおそる口を開いた。
「エミリオ様…実は、クロエは昨日の夕方からヒューゴ様直々の任務でクレスタに…」
「クレスタ…昨日、から…だと…?」
エミリオの頭は真っ白になった。絶望、そしてきっと見ていてくれたと思っていた自分に羞恥すら覚えた。僕は……。僕は、なに期待していたんだ。ヒューゴが、何かしてくるのは当たり前だろう。この頃はマリアンより長くクロエと一緒にいたから。走り出したエミリオを止めようと後ろから声がかかる、でも。
「…っ」
『坊ちゃん…』
部屋の鍵をかけてその場に座り込むエミリオにシャルはかける言葉が見つからなかった。見つけられたとしても傷付いたエミリオの心に届かないことは明らかだった。プライドからか、下を向いたまま静かに泣くエミリオをシャルは見守ることしかできなかった。
予定より何日も早く、次の日の朝にクロエはダリルシェイドに帰ってきた。嫌な予感がして、急いで仕事を終わらせてきたのだった。眠い疲れたと訴える身体を無理矢理動かして屋敷に戻る。実は向こうでもあんなに身体を動かしてきたのに食欲は一向に回復しなかった。それどころか吐血や身体の不調。もうすぐ、なのだろう。瞳を閉じてこの世界を愁い、あの世界を思った。屋敷に近づくと馬車からでも分かるほどやけに騒がしい。窓から顔を出すと外にわらわらといる人。あ、レンブラントさんもおろおろとメイドたちに何か指示している。丁度停まった馬車を降りた私を見つけたマリアンが顔を真っ青にしてこちらに駆けてきた。
「マリアンどうし―」
「エミリオが…っ、エミリオが居なくなってしまったの!」
また、後悔。