合宿から1ヶ月経った。明日はとうとう剣技大会だ。エミリオは緊張などしてないようだし、ヒューゴも執事のレンブラントさんも忙しそうだ。メイドたちもこの収穫の時期は実家の手伝いに戻ったりと、多忙らしい。


「おい、最後に真剣勝負しろ」

「師匠をもっと敬えこのやろう」

「………」

「無言は止めてよ全く…ほらいくぞ!」


急に詠唱無しでピコハンを降らせる。予測していたのかエミリオはいとも簡単にそれを避け、私に向かってきた。刃同士が交じり合い、振動が柄を伝った。大きく飛んで踵落しを繰り出すがかろうじてかわして小刀を投げ付ける。エミリオは晶術でそれを妨げた。


「うん、いい感じだね…でもまだまだ…スプラッシュ!」


濁流で足元を攻撃してバランスを崩した。それでも筋肉を最大限に使って後ろに飛び去った。そこから一気に跳躍していつの間にか目の前に黒髪が揺れた。


「はぁあぁあっ!魔神剣!!」


私の手からレイピアが飛び去った。遠くで地に突き刺さるのと同時に首に刃。………私が、負けた。


「……っく、あははははははははは!エミリオに負けた…ふふっ…流石だよ…もうすぐか…はは…っ…」

「クロエ…?」

『どうかしたんですかクロエ?』


急に笑いだしたクロエは笑い終わるのも急にだった。下を向いていたが、顔を上げてエミリオをしっかりと見つめる。その顔は穏やかで、嬉しそうに頬を緩ませていた。


「よくやった。明日はきっと優勝するよ」

「………あ、ありがとう」

「さーて、昼飯!」


ちょっと待て、と後ろから腕が伸びて手首を掴まれた。くるりと振り向いて紫水晶をまた見つめる。少し戸惑ったような、そんな感じでおそるおそるポケットから何かを差し出してきた。ぶっきらぼうで、それでも手渡すのを悩んでいるようで。


「これは…ピアス?」

「クロエなら、僕と同じ金のピアスが、……に、似合うと、思って…」


エミリオの左の耳元で揺れるものと同じタイプのピアスが1つ、小さな袋に入っていた。思わず本当にくれるのかと問ってしまった。真っ赤な顔で早くつけろと言われ、私はそっと肩を擽る髪を耳にかけて何も付いていなかったピアスホールにピアスをつけた。きらりと光るそれはエミリオのと、お揃い。


「ありがとう…大切に、する」

「か、感謝するなら明日競技場に応援に来い!…っほ、ほら屋敷に戻るぞ!」


照れ臭いのかシャルのコアを引っかきながらエミリオは私を追い越して先に行った。シャルのぎゃあぁああという声が小さくなる。


「エミリオ…でも、こんな…世界に……依存しちゃう…でも………っ…」


***



昼食の後エミリオは勉強だと部屋に閉じこもった。…本番前なのに、勉強?有り得ないわ。私は暇な時間になってしまいどうしようかと自室のベッドで寝転がっているとメイドさんが来てヒューゴ、様が呼んでいると言われた。……なんだろう、行きたくないんだけど。しぶしぶと廊下を歩く、そこまで長くない廊下も嫌だと部屋までが遠く感じた。なんだか扉まで威圧的だ。


「失礼しますヒューゴ様、クロエです」

「入りたまえ」


中に入るとヒューゴが珍しくこちらを向いたまま座っていた。両手を組んで、目はちゃんと私を見ている。


「君には今からクレスタにモンスターの討伐にいってもらう」
「…え、今からですか!?」

「そうだ」

「わ、俺…明日エミリオの剣技大会見に行くって約束したんですが…」

「急を要する。エミリオなどどうでもよいから身支度をしろ、馬車を下に待たせてある」


そう言って意地悪そうに目を光らせ、書類に目を落としてしまった。もう一回声をかけようとも逆に無言で不機嫌そうに睨まれてしまい、私は部屋をでるしかなかった。…………ごめん、エミリオ。私はエミリオに会う暇もなく、クレスタに向かう馬車に乗り込んだ。


坂を転がる石は、もう止まらない。




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