孤児院から戻ってくると視線だけで射殺せるかって程ものっすごくエミリオは怒っていた。無言の圧力に耐え切れず、明日帰ろうというエミリオにクロエは頷くしかなかった。
「ね、ねぇ怒ってる…?」
「別に、僕が修行で走っている間に師匠のクロエが何処かへふらふらしてることを気にしていて怒っているわけないだろう」
めっちや怒ってるな…。ため息をついて私は寝袋のようなものに身体を入れて縮こまった。
「大体こんな所で野宿したり僕自身で料理したりなど…」
「…エミリオ、お前いろんなところに任務に行くのにどこでも宿があったり美味しいご飯があるとか思ってないよな?」
「あ、当たり前だろ!!」
「分かっているならいいんだ。無知より、色々と知っていた方が役に立つだろ」
薪に枝を放り投げ火が消えないようにする。ぱちりと燃える音が私たちの間を流れた。考えいるのか、エミリオは言葉を出そうとし、迷って声だけが口から出てしまっていた。ようやく言葉にする。
「……クロエは、今をどう思う?」
「今?この生活って事かな?」
「それもだし、生きている事とかも、だ」
8歳に近づく少年とは思えないくらい大人びたエミリオの真剣な顔につられて考えてみた。浮かんだのは深淵の世界。ジェイド。運命の世界。エミリオ。
「楽しいこともあったけど、一言で顕すなら……苦労、してきたよ。軟禁みたいな事をされた時期もあったから…。」
それにエミリオは初耳だと口を尖らせた。あまり過去をクロエは教えたがらないからだ。本当にいい過去はない。せめて、エミリオにとってクロエは上辺だけであってもいい師匠であったと思って欲しい。いつか、消えてしまう私を。
「僕には母親がいない、ヒューゴも父親らしい事をしたことはない…」
「そんな自分を不幸だと思うのかい?」
もごもごと当たり前じゃないかと言うエミリオ。私は寝袋から出てエミリオの元に行った。困惑、の表情の彼の頭をそっと撫でた。
「――世界には戦で両親がいない子がいる。貧乏で食事もまともにとれない子もいる。勉学すら出来ず働かないといけない子もいるんだ」
「だ、だからって僕は…!」
「不幸だと甘えるな」
寝袋から起きたエミリオが言ぐっと言葉をつまらせた。シャルは何も言わずにコアを光らせることもせず静かにしていた。私はエミリオをそっと抱きしめた。分かって欲しい。君はまだ幸せだ。そして自分にも言い聞かせる。私は、幸せだ。
「……さぁ、そろそろ寝るよ」
***
―ユリアの生まれ変わりよ、終焉に近付いている―
な、に………?
―不調はお前の身体を世界が拒絶しているからだ。このままでは……―
もしかして…ローレライ?このままでは、って……
―異変は緩和し始めた。我の力も安定してきた…時期は近いぞ―
わたしがかえるじかんがきたようだ。