剣の大会まであと1ヶ月となった。クロエはヒューゴに許可をとって実践をする合宿という名目でクレスタの街に近い森に行くことになった。エミリオはダリルシェイドからあまり出たことがないのか、しきりに珍しい農村の景色を眺めていた。
「いい所だろう?」
「…ふ、ふん、こんな田舎…」
『素直じゃないんですからーいだだっ』
ご丁寧にコア側を下にしてエミリオはシャルを高い位置から地面に落下させた。本当に学習しない剣だ。
「あー言い忘れてたけど、野宿ね今日」
「なっ…!」
***
ようやく森の中の川の近くに腰を落ち着け、2、3日ここで過ごすと言うとエミリオは眉間に山をつくった。野宿が相当気に入らないらしい。馬鹿にすんなよ、立派なアウトドアだよ。
「宿がないところで役に立つから、ね」
「…………」
黙々と薪にする小枝を集めるエミリオ。不満たらたらのようだ。その間に自分は水を汲んだり料理の準備をした。ある程度のところでエミリオを呼んで足場の悪そうな川岸に移動した。
「さあ、こんなとこでも剣を振るえるかな?」
「…ふっ、面白い。勝ってみせる」
『頑張りましょうね坊ちゃん!』
シャルを構えたのを見届けてからクロエは地を跳んだ。この2ヶ月程でエミリオはかなり上達した。晶術の磨きもかかってきている。―――でも。
キィン!
「……まだまだみたい、だね」
「くっ…まだまだだ!」
「そうこなくっちゃ」
少し離れた所に突き刺さったシャルを構え直してエミリオが突っ込んできた。まだ甘い。
***
「エミリオは右からの攻撃に弱いね…小刀も使って二刀流にする?」
「……あぁ、でも今は調度いいナイフは手元にない」
「うーん…あ、じゃあコレ使って」
私は護身用に隠し持っていた小刀を手渡した。少ないかつ上品な装飾に惚れて買ってしまったものだ。しかしエミリオは渋い顔をしてなかなか受け取ろうとしない。…?
「ほら、受け取ってよ」
「あ、ああ…」
恐る恐る、といった感じで漸くそれを受け取る。左手でくるくると回して、具合を確かめていた。手にフィットしたのか満足そうにそれを右側の腰に納めた。
「さあ、やってみようか」
「そうだな」