庭で稽古をしていたエミリオに会った途端にロックブレイクをぶちかまされた。慌てて避けて頭をべしっと叩いておいた。最初にいっておくが暴力でない、教育的指導だ。ちなみに拳で。


「会った途端に晶術とは、随分と偉くなったなあエミリオ…」

「………無事、だったのか」

『クロエお帰りなさい!心配してましたよ〜』


少し安心したようにシャルを鞘に納めてエミリオは私が亡霊ではないのかというくらい凝視してきた。無礼だろ、シャルを見習え。


「失礼だな、これでも…」

「?どうした」

「い、や…なんでもない。ほら、もう夕食だぞ」



言葉を濁した私に疑問を抱きつつもエミリオは屋敷へと足を進めた。………やっぱり、あの襲撃事件はおかしい。何か裏があったような気がする。そう、ヒューゴの。やけに護衛に人を多く雇いすぎた、そして途中で私を見張りとして前に変えた、彼らの意味深な会話…あの話やら実行するやら。


でも、私には関係ない。


そう言い聞かせてエミリオの後を追った。そう、ここに居れば何かに追われることもない。不安も人並みにあるだけ、クロエ・ジュエを気にする者などいない。

***


「―――あらクロエ様、もうお食べにならないんですか?」

「…あー、食欲無くて」


エミリオはメイドの言葉を聞いてクロエの前の皿を見た。まだメインも半分残っており、大の大人が食べる量を満たしてなかった。たしか、20歳くらいと言っていた気がする。足りるのだろうか。なんだかんだ言って、エミリオはクロエの事を信頼に値する人物なのではないかと思っている。マリアンに相談できなかった事もこいつなら笑わずにちゃんと答えてくれた。剣の指南も的確で一段と自分の腕を研く事ができた。――それに、自分と同じ様な境遇…というか、似たようなものがあると思う。


「……」


目の前のいつもよりちょっと豪勢な夕食を食べ終えてエミリオは席を立った。勿論、プリンはしっかりと食してある。それに続いてクロエもわたわたと立ち上がってメイドたちにごちそうさまと言いながら後を付いてきた。


「おい、明日は僕に1日中付き合ってもらうからな」

「げっ」




エミリオはそのまま2階の自室に入った。しかし直ぐに扉に耳をつけてクロエが部屋に入る音を聞いてからまた廊下へ出てきた。不思議そうにシャルが自分を呼ぶ声がした。向かう所は―――――ヒューゴの、父親の部屋だ。



***




部屋の中に入ると資料の多さに圧倒された。クロエが来る前に入った時と驚くほど量が違う。そっと机の上の書類をめくる。「セインガルドにおけるレンズの変換率の低下の原因、考察、解決案」、「ダリルシェイド内マーケティング」…。社長らしい書類ばかり置いてあった。


『坊ちゃん一体何を…?』

「見付けたぞシャル!」


机の中を漁っていたエミリオは1枚のご丁寧にマル秘印のされた書類を取り出した。表紙には「クロエ・アマネ」と書かれていて、中身をサラっと見るとやけに少ない個人情報、攻撃力、思考傾向など普通こんなことまで調べないだろうということまで細かに書かれていた。


『…ヒューゴはなんでこんなにもクロエの事を調べてるんですかね?』

「ヒューゴ、様のことだ…クロエを利用するんだろ」


「その通り」



冷たい声が背中を這った。慌てて振り向くとヒューゴが立っていた。エミリオはなぜこんな傍にいたのに気配に気付かなかったのかと顔を真っ青にした。シャルのコアも不安そうに一回光った。


「あれほど勝手に部屋に入るなと言っただろう」

「す、すみません……」


そのまま立ち去ろうとする我が子をヒューゴは蹴り飛ばした。どがんと大きな音を立ててエミリオの小さな身体は壁に打ち付けられた。鈍い痛みが身体中を走る、胸倉を掴まれヒューゴの目の前まであげられた。酸素がだんだんと抜け、苦しさが増した。――実の息子に、何をやるんだこいつは。

『坊ちゃんっ!?!?…っく…』


「今見たものを誰かに言ったりしてみろ。お前が気に入っているメイドと剣士がこの屋敷から永久に消えるぞ」


「………は、い。言いません」


そう苦し紛れにエミリオが言うと手の力が無くなり床に落とされた。痛みと絶望に耐えながら部屋を出てまた自室に戻るとエミリオの瞳から涙が滲んだ。この前のヒューゴとクロエが襲われた事件は自分で起こしたものじゃないか。あれは、クロエの実力を測る為に計画されたものだった。そしてクロエはヒューゴの駒に選ばれた。僕と、同じ。


『坊ちゃん………』

「…僕はまだ弱い。マリアンやクロエを守る力すらない」



なぜか母親に似てるマリアンよりもクロエに縋りたくなった。

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