早朝――――


たくさんの護衛を雇ったヒューゴは自身はまたいつかの高価そうな馬車へ、私はその後ろに馬に乗って待機していた。朝靄のかかるダリルシェイドは美しく幻想的だった。何人かのメイドに見送られて私たちは出発した。旅の期間はだいたい1週間。エミリオにはたくさんの課題を押し付けてきた。まだマリアンを泣かせた事を根に持っているらしく、ふんと鼻を鳴らして面倒くさそうに了承してたなあ。手綱をにぎりしめながらはあと溜め息をつく。まだまだ、道のりは長い。




***



お昼が近付き途中で昼食兼休憩を取ることになった。セインガルドの東部にあるクレスタの街に立ち寄り食堂のようなところを探した。


「私は一人部屋で食事を取る。お前たちの分は食堂に用意させてある」


そうヒューゴは言ってさっさと部屋へと引き上げていった。そんな横柄な態度に護衛たちは文句をいいつつも、たくさん用意された昼食を見て目の色を変えてがっついた。…どうやらこのご時世、彼らの給料はよろしいとは言えないようだ。


「流石セインガルド国一金持ちはやるこたぁ、豪勢だなァ!」
「護衛ごときにこんなに飯を用意させるなんてな!久々に満腹になりそうだぜ」


わいわいと賑やかな中、耳を傾けながら目の前のパンとスープだけ口をつける。この頃なぜか食欲がないのだ。


「そういやあ、あの話…どうするんだ?」

「勿論実行させるに決まってんだろ!」


にんまりと笑った彼らの顔は少し悪党ぽかった。その時外から子供の大きな声がした。


「おばちゃん、お手伝い終わったよ!」

「あらルーティちゃんありがと、食堂にたくさんご飯あるから持ってっていいよ」

「ほんと!?ありがとねー」


ばんと勢いよく扉が開き、エミリオより少し年上の黒髪の女の子が食堂へと入ってきた。少しくたびれたような服を着て、それでもご飯を貰えるとキラキラと大きな瞳を輝かせていた。手には少し大きめの袋が握りしめられていて、どうやらそこに突っ込んでいくようだ。ちょうど食卓にはパンが多く残っているからであろう。……ん?ルーティって…。


「そこのイケメンのお兄さん、パンたくさん取ってくれない?」


子供独特の高い声が聞こえふと右を見るとさっきまで食堂の入口にいたであろう、ルーティが袋をさっきより重そうに抱えながら私を見上げていた。


「――はい、どうぞ」


目の前にあったパンをいくつか袋の中に詰め込んでやると嬉しそうにしながらお礼をいって去っていった。少し考えてから私はその小さな背中を追うべく、食堂を出た。


宿からでるとルーティはよっこらせと大変そうに、そして大事そうに袋を抱えながらよろよろと懸命に足を前へと動かしていった。これがエミリオの姉か…。やっぱりどことなく似ている。そう思いながら声をかけた。

「ルーティ、だっけ?重そうだね…俺が運ぶよ」

「あ…さっきのイケメンのお兄さん」

「クロエっていうんだ。よろしくね」


女みたいな名前ね、と言うルーティに私は苦笑しか出来なかった。流石ルーティ、そうです私女です。私が持ってきた野菜や果物の入った軽めカゴと重い袋を交換して少し坂の道をゆっくりと昇っていった。


「何処まで運べばいいかな?」

「あそこの孤児院まで頼める?」


指差す方向にはおんぼろながらも大きな建物があった。庭が広くて隅にはたくさんの洗濯物が干されてぱたぱたと靡いていた。砂山や少しばかりの遊具もあり、周りには小さな子供が遊んでいた。


「おーい、たくさんパン貰ってきたよー」

「ルーティねえホント!?」
「やったね!」


子供がたくさん私とルーティの周りに詰めかけた。私は袋の口がちゃんとしまっていることを確認してからそっと何人かの子供に袋を渡した。5、6人で家の中に持ち運ばれてそれに他の子供は着いていってしまった。

「ありがとうクロエさん」

「どういたしまして。じゃあね」

「また会えるよね?今度は中にも来てね!!」


ぶんぶんと手を振ってルーティと別れた。………まさか、子供時代のルーティと一瞬でも関わりを持つなんて、ねぇ。さっききた道を遡りながら私は小さな勇敢な少女のことを回想した。それから1時間程してからようやく出発するとヒューゴが上の階から下りてきた。私たちは休憩やグミなど消費品も買い揃え終わって、出発する準備はできていた。


「クロエ、お前は私の馬車の前を任せる」

そう言ってヒューゴは馬車の中へ入っていった。さっき前だった人と場所を入れ替えて旅は再開した。


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