「………」
「………」
『それでですね!その時の坊ちゃんときたら…っくー超格好よかったんですよ!?…聞いてますかクロエ?』
私はティーカップを口元に運びながらエミリオにこのお喋りソーディアンを黙らせろと視線を送った。まだ不機嫌そうな顔で首を横に振る少年。あ、今かっちーんてきた。私はデザート用のフォークをシャルに突き立てるフリをした。
『ぎゃあぁあぁ!』
「まだ、刺してないんだけどな…」
「……おい、」
ふと戸惑ったような表情でエミリオがこちらに話し掛けてきた。…驚いた、まだ簡単には話し掛けられる程心を開いてはくれてないよなあと思っていたから。
「なに?」
「もしかして…右利き、なのか?」
「ん?…嗚呼さっきは左で剣を持ってたか。さすがに子供に利き手でやるのはフェアじゃないだろ?」
そっか、だから違和感があったのか!と一人納得するシャルとは反対にだんだんと機嫌が急降下するエミリオ。どうしたのかと問うと怒ったような口調で跳ね退けられた。
「子供扱いするな!僕だって城の兵士とやり合える程度の実力は持っている!」
『ぼ、坊ちゃん…っ!』
「…ふーん。ならその実力はさっきは見せられなかったのかい?いつでもその実力を見せられないのなら、それはただの運だよ。そんなんじゃあまだ、俺を倒せないよ」
「………絶対に、打ち負かしてやる」
目をめらめらと闘志で燃やしながらエミリオは宣戦布告してきた。ふと思った。あれ、私ってそんなに剣強かったっけ?あ、ただの自惚れか。
「だから明日からはみっちり僕の真の実力を見せてやる」
『頑張りましょうね坊ちゃん!』
「……みっちり、って…」
沢山修行するって事か。止めていただきたいよホントに。…あ、シャルで思い出した。私にソーディアンマスターの資格があること、隠しておかなきゃ。ヒューゴからしたら、晶術(ほんとは譜術だけど…)を使える時点で私に資格があるって可能性があることくらい気付いているのだろう。――あんたの、駒になんてならないから。
「エミリオ様、俺にシャルの声が聞こえる事は黙っていて欲しいんだけど…」
「何故だ?」
「…………知られたくない、人がいる」
その言葉にその知られたくない人が自分の父親、ヒューゴだと気付いたエミリオはこくんと頷いてくれた。
「分かった…その前に」
「?」『?』
「そのざっくばらんな髪型をなんとかしろ!此処にいるなら身なりくらい整えろ!!それから僕の事は様付けするな!」
視線を反らして顔を赤く染めながらエミリオはビシッと私に人差し指を突き立てた。……。エミリオにツンデレの神様が降りてきた。ふと笑みを零してまた、紅茶を啜った。
まだ、モノクロの世界。でも少しだけ、色がついたよ。