さっきの部屋に戻ると紅茶と軽い軽食が用意されていた。マリアンさんが向かいに座って紅茶を高そうな陶器のカップに注いでくれた。ふわりと甘い香りが部屋に溢れた。ふとアスランが入れてくれた甘い紅茶を思い出した。美味しかったなあ…。鼻の奥がツンとした。嗚呼また浸っている…。瞳の潤いを隠す為に瞼を閉じてマリアンから見えないようにした。不自然がられないように無理やり軽食のサンドウィッチを口に押し込んだ。
「―後1時間程で勉強を終えたエミリオ様にお会いしていただきます」
「……、そのエミリオ様はいくつなんですか?」
「クロエ様、メイドに敬語はお止め下さい」
「じゃあマリアンも敬語は止めて、…2人だけの時だけでもさ、いいかな?」
悪戯っぽく笑うと仕方ないとばかりにマリアンも微笑んだ。
「エミリオ様は7歳になられたわ」
「マリアンはいつからこの屋敷に?」
「ちょうど去年くらいだったかしら…今では恐れ多くもエミリオ様の世話係をしているの」
どうやら、マリアンとリオン、否エミリオの間にはもう絆ができているようだ。ふと鮮やかな部屋が一瞬にしてモノクロのように思えた。そう、どんなに高価なものだって壊してしまえば価値はなくなる。私、ここに、いてもいいんじゃないの?ぐるぐると嫌な事ばかり考えてしまった。
「――…クロエ?どうかしたの?」
「…なんでも、ないよ」
エミリオに会うのが、怖いだなんて言えない。ふと見るとコップを持つ手が震えていた。……大丈夫、あまり関わらなければいいんだ。気持ちを落ち着かせてからよしと立ち上がった。
「じゃあマリアン、そろそろ行こっか」
「エミリオ様は隣の部屋よ」
……………まじか。ももももももしかして…っ。
「これからこちらの部屋をクロエに使ってもらうの」
「あ、りがと…はは…っ」