「………………」
「……(気まずい)」
タルタロスのとある船室の中、クロエはリグレットのビシバシ突き刺さる視線と不穏な空気に居心地が悪かった。……どうやら、クロエがいる事が不満らしい。ぽつりとリグレットが呟いたのが耳に聞こえた。
「…なぜ閣下はこんな小娘を気にしているのか」
「……えっ?」
「ユリアの再来と言えども封印術でも施せばただのガキなのにな」
鼻で笑いながらリグレットは嘲笑った。……どうやらリグレットはクロエの事がお気に召さないようだった。
「ヴァンがこちらを意識してることに嫉妬してるんですか、年増が」
「口を慎め!!」
カッとしたリグレットは譜銃の面でクロエの頬を張り飛ばした。椅子から転げた彼女の身体にヒールの高めの靴で踏み付けた。「ぐはっ!」と空気が押し出された。
「閣下は貴様のような自分の事しか考えているような愚かな者が呼び捨てしていい方ではない…小娘、図に乗るなよ」
ゴリゴリとヒールが腹へとめり込む。苦しさと痛みから顔を歪ませてしまった。その時調度船室の扉が開いてシンクが入ってきた。クロエたちの状況をみて珍しく慌てて2人の間に割って入った。
「なにしてるんだよリグレット!」
「……少し我を忘れていたようだ、その小娘はシンクに任せる」
「ぐっ…」
「大丈夫なのクロエ!?顔が赤くなってるよ!何か冷やさ――」
「シンク、お願いがあるの」
リグレットが立ち去って2人きりになったところでクロエはひたりとシンクを見つめた。アクゼリュスはもう目前。なら私は街の人たちを助けにいかなきゃ。まだルークたちが来るまでに、時間はある。
「私を、ここから逃がして…」
「な、何言ってんだよ!!せっかくクロエと一緒に居られるのに……!僕を、助けてくれてから、全然会ってなくって…久しぶりに会えたと思えたら……逃がしてだって?嫌だよ…」
「大丈夫…アクゼリュスの人たちを助けたらまた、シンクのとこに来るよ?」
クロエの肩に顔を押し付けて嫌々をするシンクの肩を押してちゃんと見つめ合う。そっと手を伸ばして仮面を外す。嫌がるそぶりはみせず、そのまま顔を見せた。まだ幼さを残した、イオンと同じ顔。それを今は不安でいっぱいにして歪ませていた。そっと抱き寄せるとぎゅうぎゅうと腕が回ってきた。ぽつりと小さな声が聞こえた。
「絶対帰ってくるの?」
「…うん、帰ってくるよ」
シンクは赤くなった瞳を隠すように閉じてクロエにもたれ掛かった。
「………約束だからね」
「うん、ありがとうシンク…」