グランツ兄妹の一触即発の空気の中、私はクロエを観察していた。そういえば、昔の彼女はまるで私の心を表しているかのようだった。
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はじめに出逢った頃の彼女の、クロエの瞳は冷めきっていた。そのガラスよりも尖っているのではないのかというくらい鋭い瞳に吸い寄せられた記憶がある。まるで、昔の私…ネビリム先生をフォミクリーで復活させようとしていた、死について、どうでもいい、逆になぜそんな風に泣いたりするのだろうと思っていた頃の。
また脱走した自分の君主であるこの国の陛下、ピオニーを探しすよう部下に通達しようとした最中だった。ジェイドに宛がわれた執務室の扉が勢いよく開かれた。入ってきたのは街中に行く為の変装用の服に身を包んだピオニー、それと1人の少女。
「また街に行ったのですか陛下」
「おう、そんな事よりジェイド…こいつはクロエ、ユリアの再来と呼ばれてる奴だ」
「!ほう、彼女が……」
眼鏡越しにまじまじとクロエを観察してみた。
なんて、暗い色をした瞳なのだろうか。
そんな出会いれから3年、私はクロエのおかげでだいぶ変わった。波紋のようにじわりと自分に変化を与えてくれた。ほんの少し頬を緩ませ、柄にもなく幸せなのだろうかと心で呟く。
しかし、ふと今座り込んでいる彼女をみやった。顔色は悪く、何かを後悔しているようだった。そして何か、思い出そうともしているように見えた。
そういえば、私たちは彼女の事を何にも知らない。
自分の話をしたわけではない、だが彼女はさらに自分の話をしたがらなかった。そんなこと、今まで気にしてすらいなかった。それほと。彼女との3年間は濃く、充実という言葉を使っていいほどのものだった。……それは、彼女にも、クロエにも当て嵌まっていたのでしょうか。