「とりあえずこれでやっとキムラスカ領に戻ってこれたってことかぁ〜」
大きく伸びてルークは嬉しそうに言った。どうやら検問所まで迎えにきてくれたヴァンの存在が大きいのだろう。
「とはいえキムラスカ王城やファブレ公爵邸がある首都バチカルはアベリア大陸の中央部、ここルグニカ大陸からはまだ海を越えなきゃならないぜ」
「来るときに使ったローテルロー橋は落とされちまったんだよな…誰かさんが漆黒の翼を取り逃がしたせいで」
「ああ…ありましたねえそんなことも」
今思い出したかのようにいうジェイドにアニスとクロエは言う言葉が思い付かなかった。これまで1度もクロエとジェイドは話をしていなかった。ルークは気付かず、イオンはオロオロして、アニスは「痴話喧嘩…」とニヤついて(てんめぇ…!)、ティアは困ったように口をパクパクさせていたが、どうやら自分は突っ込まない方がいいのだと決めたようだった。そんな微妙な空気の中、何にも気付かないルークはヴァンに必死に長旅を頑張ったと話していた。少ししてから、話の整理という名目で岩の多い所に腰を降ろした。
「――今回の和平交渉に付随する行動は完全に僕個人の独断です、教団本部はこれに関与していません…そのためマルクト軍とクロエに極秘裏に助力を要請しました、今ごろ教団は血まなこになって僕を捜していることでしょう」
イオンから状況を話し出した。アニスもそうなんですぅ、と口を挟みつつちゃっかり自分は巻き込まれたアピールをしていた。ある意味神。
「そういえばヴァンとは3年ぶりですね……」
「そうですな、お久しぶりですクロエ様」
ゆっくり深々と礼をするヴァンを睨みつけるティアを見なかったフリして私も経緯を話すことにした。
「私は3年前から教団からの軟禁に耐え切れずにマルクト帝国皇帝ピオニー様に保護してもらっていました」
「なるほど…私がイオン様を捜すよう命じられたのも、あるいはマルクト軍から奪い返せということかもしれぬ…」
ようやく合点がいった、とヴァンはそれから大詠師モースが六神将を動かしていたのだろうと推測した。ティアは信じられない、と鋭く言い放った。一瞬顔色を変えたヴァン、しかしすぐにそれを隠してティアを諌めた。ティアはそんな兄を信じる気はないようでいきり立って杖を構えようとした。
その間ジェイドは終始無言を貫いていた。