教皇の間にアテナ、黄金聖闘士、教皇、そしてカルディアとカレンが揃った。床には見たことのない陣、その傍にはデスマスクが待機していた。 「カルディア、貴方には本当に申し訳ありませんでした…。願わくば、もっと語り合いたかったです」 「アテナ、短い間だったが感謝してるぜ」 「カルディア…」 「なんだよシオン、しけたツラしやがって。先に行って待っててやるよ」 こんな時にまで無邪気な笑顔を見せるカルディアに女神と教皇は苦笑をみせた。 「お主とはまた酒でも飲みたいのぅ」 「今度は負けないぜ童虎?」 童虎とガッシリと握手を交わし、何人かの関わりのあった聖闘士に挨拶をすると最後に私の元にやってきた。 「…お別れだな、」 「…………カルディア…あのんっ?!」 発そうとした言葉をカルディアの口で飲み込まされた。優しい口づけに、涙が溢れてきた。最期は、笑顔で送りたいのに…。 「泣くなよカレン」 「わ、ってるわよ馬鹿…!」 「てんめぇ!こんな時に…!」 頭をガシッと掴みわしゃわしゃーっと髪をぐしゃらせるカルディアにカレンは怒ったように拳を振り回した。でもすぐに笑みを浮かべ、しまいには笑った。 「カルディア、愛してる」「俺も」 キスを交わす。長いような短いような時間だった。それから名残惜しそうに2人は離れた。カルディアが1人、陣の中央へと向かった。 「それでは、よろしいですか?」 「おう、ちゃっちゃと済ませてくれ」 「…分かりました。ありがとう、黄金聖闘士、蠍座のカルディア」 アテナの言葉が終わったと同時にデスマスクが小宇宙を高めながら積尸気冥界波を放つために手をあげた。黄泉比良坂への道が開こうとした。この陣は中にいる者だけがあちらの世界へと行けるようにアテナと教皇が張ったものだ。それへの力を調節するアテナの前を一迅の風が吹いた。 「!?カレン!」 「おま…カレン!?」 「カルディア!やっぱ私、もうあんたと離れたくないの!一緒に死のう!」 「…!馬鹿、じゃねぇのか?!」 「もう未練なんてないの、ただ、カルディアとずっといたい!」 「カレン…!」 カルディアの頬を一筋の涙が流れた。小さく笑みを零し、嬉しそうにカレンを抱きしめた。 「アテ……沙織さん!皆!色々ありがとう!」 そこにいる全員に手を振るカレンは満面の笑みを浮かべていた。光が辺りを包み、一瞬のうちにカルディアとカレンの姿を消し去った。 「…アテナ、よろしかったのですか」 「あの2人が、幸せになるのなら」 陣へ流していた力を止め、沙織は小さく笑みを零した。…2人の来世では、更なる幸せになれるように。ミロも陣を見つめたまま、微かに笑みを浮かべた。…またいつか、会えるといい。遠い遠い未来に。 *** 「ねぇ早くしてよ!」 「っせーな…聞こえてるから!」 「ならとっとと歩いて!ちんたら歩いてるから遅刻しちゃうじゃない!」 「えー…だって早く行ったら」 「おはようカレン!」 聞こえてきた声にカルディアは顔をしかめた。 「おはようミロ」 「急がないと遅刻してしまうぞ」 「ほんとそうだよね!ミロもカルディアに言ってやって!」 「置いてって2人で行こう」 「ざっけんなもふもふ野郎!俺とカレンが一緒に通学してるんだぞ!」 「あっ、ちょっとカルディア!」 急に声を荒げてカレンの手首を掴みずんずんと前に進み始めるカルディアに思わずため息がでた。でも笑みが止まらない。ミロもそれが面白くて仕方なかった。 そんな、いつかの未来の話。 fin |