剥離するまで待って


「それではこちらに並んで1人ずつ自己紹介をお願いします」

フリングス将軍の声に端っこにいたお嬢様が一歩前に出た。優雅にお辞儀をする。

「お初にお目にかかります。私は前将軍でしたシュナウザーの孫にあたります、ミーシャと申します…」
「私は――――」
「私は――――」

と同じような調子で何人かが終わった。皆、高い地位の貴族なのが分かった。あたしの家も、多少なりとも高めの地位ではあるが、彼女たちと比べたら劣ってしまう。…あたしの番だ、一歩前に出た。

「…はじめましてピオニー陛下。わたくしは、アマネ家の一人娘のカレンと申します」

礼を深々とする。後ろではアマネ家の娘はあの子だったかしら…と疑問の声があがっていた。カーティス大佐も疑問に思っていたようだ。

「…どういう事か、説明していただけますか?」
「え、っと…身体が弱くて…メイドを影武者にしてました…」
「…………成る程、分かりました」

カーティス大佐に少し首を傾げられたがその場はスルーしてくれて次の子へと視線が移動してく。


―――パリン!

近くでガラスの割れる音がした。えっ、と音のする方―――上を見上げるとガラスと一緒に大きな何かがたくさん落ちてきた。―――人だ!

「ピオニー陛下覚悟!!」

剣を持った男たちが次々に着地し、玉座に座るピオニー陛下へと走り出した。フリングス将軍とカーティス大佐が陛下の前に立ち塞がった。今回、この部屋にいる兵士は少ない。…暗殺者たちはこの時を狙っていたようだ。数少ない兵士はお嬢様を脇へと下がらせたり連絡に走ったり、ピオニー陛下を守っていられるのは5人もいなかった。あたしは走り出した。

「ちょっ!貴女…!?」

ドレスが鬱陶しい、でもここで王を殺されては堪らない。あたしは太股に隠し持っていたナイフを取り出し1番ピオニー陛下に近かった男に投げつけた。

「ぐあっ!!」

近くにいた兵士の刀を拝借し、襲い掛かってきた暗殺者を一刀した。跳ねる血飛沫を避けるついでに足蹴りで何人か倒しておく。譜術を使いたいが、味方識別をしていないので逆に陛下たちに被害が加わってしまう。…こうなれば。

「大佐!敵をできるだけ中央に…!あたしが譜術でぶっ飛ばします!」

返事を待たずにあたしは久しぶりに詠唱を始めた。大掛かりすぎると宮殿を壊しかねない。

「――…聖なる槍よ、敵を貫け!ホーリーランス!」

光が謁見の間を包んだようだった。暗殺者たちは中央にいるカレンを除いて延びていた。

「…陛下に仇なすなんて、図々しいわね」

気絶している彼らを睨みつけているとヒッ、と声が聞こえた。あ。今…陛下の婚約者候補…決めだった…!!ゆっくり顔をあげて辺りを見渡すと引き攣った女の子、唖然とした兵士たち、それから楽しそうなカーティス大佐とピオニー陛下だった。

「へぇ、お前たしか…カレンだっけ?」
「え、あ…はい」
「おっもしろいなお前!」

ニヤッと陛下は笑い私を指差して皇帝勅命!と言った。

「カレン、お前を俺を守る騎士に任命する!」
「………は?」


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