我儘な僕らは


「いいこと?あたしじゃなくてわたくしよ?」
「剣技のことは黙ってなさい」
「変に喋らなくていいわ、笑顔でいなさい」
「あと女らしくね」
「笑うときは手に口をあてて、おほほほ…よ」
「下品な言葉遣いをしたら死刑だかんなゴラ」

「母様の言葉も変…、てかドレスが…うぷぇ」

コルセットをきつく締め上げられて気持ち悪いのに、その横ではまるで暗記させるかのように母様がぶつぶつと陛下に会うまでのことをあたしに一方的にぶつけていた。

「奥様、仕上がりました」
「ありがとう。…あら、やっぱ私の娘ね。流石だわ」
「本当に見違えますわ」

メイドと母様の笑みに鏡を見るとそこには女が立っていた。いつもはポニーテールなのに、ふんわりとさせた髪を下ろし、薄いピンクのドレスを着て顔には少し濃いめに化粧を施されていた。

「これが、あたし…?」
「わたくしだろ、おい」

バシッと叩かれた。…こんな親だからこう育つんだよ母様。



***


あああコルセットや長い裾が鬱陶しい…っ!馬車の中で何度もじいやに文句を言うもじいやは見違えるように変身したあたしを見てずっと涙を流していた。

「お嬢様、ようやく…っ、ようやくじいやの夢が叶うようです…っ!」
「…因みに夢って?」
「お嬢様の玉の輿でございます」
「じいやも母様と同じ思考なのね…」

ため息、同時に宮殿に到着したみたいだった。見張りの兵士に家紋の紋章を見せ扉を開けてもらう。そっと外を見ると豪勢な宮殿がきらびやかにそこにあった。…流石一国の皇帝様の宮殿、桁違いに豪華だ。あたしは自分の手が震えていることに気付いた。…緊張、してるみたいね。

「お嬢様、本日は数名の皇后候補もいらっしゃいます。どうかその方たちにお勝ち下さいませ…!」
「ええぇ…あた、わたくしよりも100倍上品で可愛い子たちでしょ?勝ち目ないわ」
「大丈夫です、本日の預言で「あたし、スコアには頼らないって言ってるよね」…は、はい…申し訳ありません」

あたしは鋭くじいやを睨みつけた。なんでも決め付けてしまう預言なんて、あたしは嫌いだ。皆は頼り切っている、天気とかならまだしもご飯の献立まで預言に頼る始末。…こんなのだったら、あたしたちの意思はなんのためにあるのだろう!ただの人形なんてまっぴらごめんだ。だからあたしは、預言に頼らない。

丁度馬車が止まり従者が扉を開けた。

「…んじゃ、行ってくるわ」
「お嬢様、言葉遣いです」
「……………行ってきますわ、じいや」




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