行方知れずの春



「父様母様、カレンです」「おお来たか!早速だが明日ピオニー陛下の所に挨拶に「嫌よ」…え?」
「あなた、あの子には勝てないわ。だって私の娘だもの」

にこやかな母親と裏腹に父親は顔を困らせまた同じ事を呟いた。だから同じように遮断した。

「どうして駄目なの?挨拶だけじゃない」
「思いっきりあわよくば皇后になれって言ってるようなものじゃん!」
「あら〜正解よ☆」

パチンとウィンクを星と共に飛ばしてくる母親にため息が零れた。本当に腹黒い母親だ。我がマルクト帝国の皇帝、ピオニー陛下は30代と若いのにも関わらず威厳あるお方であり、即位してから僅か数年でマルクトを栄えさせたのだ。顔も麗しく整っており小麦色の肌に艶のある黄金色の髪は彼を更に際立たせている…とか。カレンは直接は会っていないのだ。
そんな皇帝が婚約者を探していると噂だったのはつい最近になってからだ。だから貴族の年頃の娘は願わくば…!と彼の隣を狙ってるそうだ。そもそももういい年なのだ、婚活が遅いとも帝都では言われていたので漸くかと国民たちは少し浮かれているようだ。

「さあ時間がないわ!急ぎましょう!」
「えっ!?あたし行くなんて言ってないわ?第一明日でしょう?」
「ごめんなさい、貴女がくる前に今日にしてもらったのよ」
「お前ええええ!??」

父様が慌てだした。どうやら母様が独断で決めていたようだ。母様がパチンと指を鳴らすとうちのメイドが総出で入ってきた。手には衣装や化粧品など、あたしには縁のないものばかり。皆の表情はキラキラしている。

「さあカレン様っ!」
「えっ」
「大丈夫です、うんと可愛くして差し上げます」
「そういう問題!?」
「「どうぞ私たちにお任せください!!」」

「いっ、いやああああああああああ!!!」


絶叫が屋敷に響き渡った。帰ろうとした剣の師範は屋敷から聞こえてきた女の叫び声に思わず合掌してしまった。



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