研ぎ澄まされた旋律



「はあっ!」

あたしは目の前の剣の師範を己の剣で薙ぎ払い切っ先を寸分の狂いなく鼻先で止めた。勝負ありですね、と冷や汗をかきながら告げる師範にニコリと微笑み剣を鞘に収めた。

「お嬢様はこれ以上戦闘に長けてどうするのですか!」
「煩いわねじいや、いいじゃない」

傍でハラハラとあたしたちの対戦を見守っていたじいやはあたしが勝ちをもぎ取ったと同時にタオルを片手に物凄いスピードで詰め寄ってきた。…たしか、還暦は越えてたはずなんだけど。

「よくありません!万が一稽古の最中にお怪我をされたら…!」
「あたしは練習で怪我をするほど弱くはないわ。…前から護身術と思ってって言ってるじゃない」
「そこまでお強ければ十分でしょう!?」

叫ぶじいやを放ってあたしはメイドに湯浴みの準備を頼んだ。じいやは諦めず浴室にまで付いてきたのでしつこい!と第七音素を掌に集めてみた。すると顔を真っ青にしてじいやは逃げてくれた。漸く厄介者が消えた…とため息をついてると傍に待機していたメイドたちがクスクスと笑いながら仕度を手伝ってくれた。湯舟につかりふう、と息を吐く。手足を伸ばし筋肉をほぐすようにマッサージをする。メイドが用意してくれた泡風呂からは薔薇の香りが鼻を擽る。

「カレン様、お父様とお母様がお呼びですのでお早めにお上がりください」
「父と母が…?分かった、すぐ出る」

2人から呼び出してくるなんて珍しい…。服に着替え髪を乾かしてもらいながら軽く化粧を施す。長い髪は身体を動かす時には邪魔だが母様からのキツい言い付けで切ることは許されなかった。(ちなみにあたしが剣や譜術を学ぶための条件の1つだった。見た目だけでも女らしくあれ、らしい。)仕度を終え2人の寝室へと向かう。向かう途中でやけに使用人たちの視線が気になったが何故かと考える前に寝室へと着いてしまったので思考を止め、扉を叩いた。



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