埋められた慟哭


ミロはカレンが居なくなり広くなった天蠍宮でぼんやりと天井を見上げていた。心なしか寒く寂しかった。いつもなら執務の後に笑顔で「お帰りなさい」を言ってくれる人が居ないのだ。暖かいご飯も、いい匂いのする洗濯物もなくただ孤独があった。他の聖闘士のように本来なら(アルデバランやムウ、カミュのように)自分で家事をするか、(サガやアイオリア、シュラのように)女官に手伝ってもらう。(因みに蟹と魚は料理と洗濯物などをお互いでやっているようだ。)

「腹…減ったな」

力の入らない足を動かして台所の冷蔵庫にいく。扉を開けるといつの間にか用意されていたオムライス。サランラップの上に置かれた小さなメモには「温めてから食べてね」とカレンの文字。つーんと鼻の奥にきた。やっぱ俺、カレンがいないとやってけないみたいだ。そこで漸く気付いた。

「あぁ…俺、カレンのことが好きだったんだ」




***



沙織は目の前の神を睨みつけた。小宇宙だけとはいえ、勝手にアテナ神殿に入ってきたのだ。無礼すぎるとニケを向けた。

「馬鹿な戦女神よ、また聖戦を起こすつもりか」
「おだまりなさい。貴方こそ、その行動が主であるハーデスの顔に泥を塗るのですよ」
「!!チッ…まあいい、本題は別にある」

少しだけ真面目な話になりそうなのでニケを下ろし腰を落ち着けた。嫌な、気がして仕方ない。

「聖域にカルディア、という前聖戦の黄金聖闘士がいるだろう」
「えぇ、それが何か」
「こちらの不備で魂を転生させてしまったので回収にきた」

嗚呼カレンさん申し訳ありません…!思わずため息が出た。この問題は、さすがの戦女神でも手出しはできなかった。

「何故、このような事態に…?そして今更なのですか」
「言い訳ではないがな、我々が聖櫃から解放された際に魂の管理をしていた奴が驚いてへまをしたようだ。今さっき報告してきたのだ」
「…まぁ、それは…その、」
「ミーノスやルネに任せてもよいが、元黄金聖闘士ということで俺自らが出てきたというわけだ」

ため息をつきながらタナトスは小宇宙を弱めた。どうやら一旦去るようだ。

「俺は長くは待てない、できるだけ早く魂をこちらに送ってこい」
「……善処、しますわ」

アテナはこう答える他なかった。1ヶ月、もたないくらいだろう。それまでに彼らには幸せであって欲しい…。前を見据えると沙織は教皇であるシオンを呼ぶようにと告げた。