彷徨する右目


嫌だと駄々をこねるミロを置いてカレンは早速カルディアとロドリオ村へと降りてきた。賑わう市場、飛び交う笑い声、活気ある村に自然と2人に笑みが零れた。

「誰かに空き家があるか聞いてみようぜ」
「そうね!…ってあ!オルフェじゃない!」
「おや、カレンじゃないか。久しぶりだね」
「ほんとにね!今日は買い物?」
「ああ、夕食の具材をいくつかね」

きゃっきゃと笑いながらオルフェと話し込むカレンを見て嫉妬深いカルディアの機嫌は急降下した。勿論、オルフェにユリティースという恋人がいることを知らないからである。カレンは黄金聖闘士と星矢たち青銅以外の男とはあまり話したがらないが、彼女がいるオルフェには気を許していた。

「あっ紹介するねオルフェ、この人はカルディア。前聖戦の蠍座なの!この時代に転生したみたいなの」
「前聖戦…老師と教皇と同じ時代に戦った聖闘士ですか…!」

礼儀正しく礼をするオルフェ、だが機嫌の悪いカルディアはツーンとそっぽを向いた。

「…どうしたの、カルディア」
「べつに。俺、あっちの屋台見てくる」
「え、…ってあ…いっちゃった…」

カルディアはつーんとそっぽを向きながら林檎の積んである屋台へと歩いていった。思わず顔を見合わせるカレンとオルフェ。

「…なんだろ、今の」
「さあ…?」
「とりあえず、追いかけるわ。またねオルフェ」
「ああ、今度はユリティースとも会ってくれ」

バイバイと手を振り小走りにカルディアの後を追う。すると林檎をかじりながら誰かと話しているカルディアを見付けた。

「もう、どうしたのカルディ、ア…?」

「おにーさんイケメン!ねぇ、今日は暇?呑みましょうよ」
「えーこんな美人と飲めんのかー!迷うなー」
「きゃあ!美人だなんてお上手!奢ってあげるから今から行きましょうよ」

カルディアの腕に絡み付く娼婦。胸をがっつりと強調し派手なメイク、巻いた髪で誘惑する女を見てカレンは顔をしかめた。聖域のお膝元で、あんな売女がいるなんて…。

「カルディア!」
「…んー…!?」

けだるそうに振り返るカルディアの胸倉を掴み無理矢理唇を合わせた。少し口を開くと入り込む舌に翻弄される。チッと舌打ちが聞こえ女が去る音がしたので唇を離した。

「オルフェには、彼女がいるのよ」
「あっそ」
「…私には、カルディアだけなのよ?」
「…そうだよな。こんな熱烈なキスをしてくれるんだしな」
「っ!!?わ、忘れて今のっ」
急に顔を赤らめるカレン、どうやらカルディアの気を引く為に必死だったらしい。あわあわするカレンが可愛らしく見えカルディアはその細い身体をきゅっと抱きしめた。

「あんま、他の男と話すなよ」
「…もう、独占欲強いなあ」

そういいながらもクスクスと笑う2人だった。