廃棄された感情


2人はたっぷり10秒ほど見つめ合った。それから―――


「…っ、カルディア!」
「カレン!!」

己の胸へと飛び込むカレンをカルディアは力強く抱き締めた。シオン以外は声にならない叫びをあげた。1番酷かったのは天蠍宮で自分の世話をしてもらったミロだった。この中で最も共に居た大切な存在であるカレンが自分の知らない男の為に涙を流し抱き締められているのを見てはいられなかった。

「カレンから離れろスカーレットニードルぅううぅううぅう!!!!」
「ミロ早まるでない!」

シオンの叫びは虚しく赤い閃光が部屋を行き交った。勿論片手でカレンを抱き寄せたままカルディアもそれに応戦した。顔は楽しい、とばかりに歪んだ笑みを浮かべていた。

「なんじゃ急にシオン、よ………」

シオンの呼び掛けに五老峰から急いでやってきた童虎の目の前に広がる光景はボロボロの会議室、壁にへばり付き犠牲者にならないようにする黄金と青銅聖闘士たち、攻撃しあう赤い閃光。何人か止めようとしたがスカーレットニードルの餌食になり痛みに床で呻き声をあげる者もいた。
「…カオス、じゃのう」

騒音の中で童虎の言葉は彼らには聞こえなかった。




***


シオンと童虎、星矢たちが必死でミロを抑え込み漸く話せる状況になった。肝心のカルディアは童虎を見て「おー、童虎も生きてたのか」と他人事のように手を振っていた。それにまたキレるミロを再度押さえる青銅たち。

「落ち着くんじゃミロ」
「落ち着いてなんかいられません老師!カレンがあの毒蠍に…っ」
「つーか、なんでカレンが今生きてるんだ?」

尤もな質問をカルディアがした。たしかに、とシュラが頷く。黄金たちはシオンと童虎の他にカレンも前聖戦の生き残りだということを知らなかったのだ。

「私もアテナ様からミソペタメノスを授かっていたの」
「へーえ…それにしても女官の服が似合わないな」
「煩いなあ、第一もうあんな露出度の高い聖衣なんて着れないもの」
「えっ、カレンは聖闘士だったのか!?」

あれ言ってなかったけ、私白銀聖闘士だったの。そうサラリと告げる。小さい頃から彼女を知っている黄金たちにとっては驚愕だった。でも確かにカレンが聖闘士だったら…、と納得できる点が多々あった。(あの長い十二宮の階段を息も乱さず登ったり重い書類を軽々と運んだり一癖も二癖もある幼少期の黄金たちを世話したり…)なるほどだからあの馬鹿力か、と呟きかけたデスマスクが吹っ飛んだ。……………え、うそ。傍にいたシュラとアルデバランが固まった。振り返るとカレンが構えていた。掌圧かよ…。しかも結構離れたとこから…。さすが元白銀だね…。こそこそと会話をする青銅。しっかりと離れた所に避難している。

「まったくやんちゃなんだからデスマスクは…。…ん?なにか文句ある?」
「な、ないです」
「よっわ、クスクス」

素直になったデスマスクを見てアフロディーテが可笑しそうに笑った。