「さあ、その美しい顔をぐしゃぐしゃにしてあげる!」

拳を握り薔薇の咲く地を蹴った。花びらが舞う。私の拳は黒い薔薇で止められた。

「この顔が何だって?」

黒い薔薇が光る。どうしても押し返されてしまう…っ。嗚呼、これはルゴニス先生も使っていた技だ。どうして忘れていたのだろう。――これは、ヤバい!

「触れるもの全てを噛み砕く黒薔薇…砕け散れピラニアンローズ!」
「チッ…!きゃあ!」

慌てて彼と間を取るために後ろへと飛ぶが黒薔薇が行く先を刔るので中々逃げられない。冥衣も少し傷がついた。朽ちそうな白い大理石の柱に身を潜めたが直ぐにそれは小さな黒い薔薇数輪で破壊された。

「無駄だ。何に隠れようとこの黒薔薇の前には役に立たん」
「…っ」
「この魔宮薔薇の園で生きていられたことだけはほめてやる。だが今度こそ終わりだ」
「くっ…ふふ、でも役に立たなくなるのは貴方の薔薇の方…」
「何?」

そう言った後アルバフィカの指先にあった薔薇は宙に舞い散った。そう、さっきから薄めのディープフレグランスを薔薇へと送っていたのだ。今から本格的に園の薔薇を消していこう。そして―――

「ディープフレグランス、この私の香気は魔宮薔薇の香気より遥かに濃厚なのよ。この甘い香りは皮膚から直接浸透して五感を直接麻痺させる…そして眠りに誘うように死に至らしめるの」

少し嘘を入れた。この香気はアルバフィカの薔薇の香気よりも遥かに薄い。だが広がりだけは早い。これでどう彼は出るのだろうか。思った矢先にアルバフィカは毒を自分へと集めた。…ああ成る程、毒の拡散を防いだわけか。自分の身を呈してまで。紫がアルバフィカを覆い、アルバフィカの中へ消えた。立ったまま動かない彼へと歩み寄る。

「死んだみたいね。何を血迷って私の、地暗星ディープのカレンの毒を一身に集めたのかしらね…」

そっと頬に触れる。少し顔色が悪いが大丈夫だ。私に気付いて目を薄く開くアルバフィカ、そのまま小さく呟く。

「今から貴方を殴る。血が出たならクリムゾンソーンで私を殺しなさい」
「!ま、まさか…お前は」
「いいわね!」

そこからは問答無用とばかりに拳を振るった。

「何が薔薇の香気よ!全く私の冥衣がボロボロ、じゃないっ!」

もう1発殴ろうとすると嫌な予感、小宇宙の高まりを感じて数メートル後ろに飛びずさった。そして辺りを赤い霧が覆う。…やっと、やっとだ…っ!

「…大したことなかったな…お前の毒の香気…」
「わ、私のあれだけのディープフレグランスを浴びて…なぜ!?」
「…お前の毒など私には効かんよ。私はもう長い年月、この毒薔薇と共に過ごしているのだ…この身に流れる血さえ毒に染まるほどにな…!クリムゾンソーン!!」


赤い霧が針のように私の身体を貫いた。痛い…。でも、これでいいんだ。

「お前に魔宮薔薇の香気が効かなかったのは己の技、ディープフレグランスを身の回りに張り巡らし香気を相殺していたからであろう…ならば直接体に私の毒の血を撃ちこむのみ!」

口から血が吐き出た。でも、おかしい。毒の量も濃度も有り得ない、薄い。

「な、何故よアルバフィカ…これは一体…!」
「何故だろうな…冥王軍へと成り下がっても私は留めを撃てん、お前にはなカレン…」
「甘い、のよ…ずうっと前から…っ、」

目の前が白くなり意識が落ちた。



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