何度も赤い絆を繰り返しアルバフィカは先生の血の毒への耐毒がついたのか、すぐに体調はよくなり聖闘士の訓練を再開させていた。対するルゴニス先生は顔色は悪くなるばかり、それをアルバフィカに隠すためか真実を知る私に付き添うようになった。先生は血を吐くようになり、私はそれを見つめただ先生の背中を摩ることしか出来なかった。

「先生…もうこのままじゃ…!」
「いいんだカレン。教皇にももう挨拶は済んである」
「!」
「気掛かりなのは…お前とアルバフィカだけ」
「ルゴニス、先生…」

儚げに笑う先生を見ていられなくて私は駆け出した。弱々しく呼び止める声がしたがそれどころではない。毒薔薇の中、走って走って…。辿り着いたのはアテナ像の見える慰霊地の丘。無人のはずの丘に人の気配がした。

「おじょーさん天馬星座知らない?」
「…天馬星座はまだ居ないけど…貴方は?」

聖域では見かけない黒い背広とシルクハットの男はそっかー残念ーといいながらぴょんと丘の上の木から飛び降りて私の目の前に来た。

「おじょーさんは聖闘士見習い?」
「………そう、です」
「師匠は誰だい?」
「魚座のルゴニス、様です」

黄金聖闘士が師匠なのは珍しいことを知ってか目を真ん丸くさせて男の人は驚いた。

「へえ!じゃあ君は魚座の後継者ってわけか」
「それは、…他の、候補生が…、居る」
「ええっ!?俺は君の方が力はあると思うんだがなあー…ま、黄金色は似合わねぇな」
「…?」

疑問を頭に浮かべていると男はにやーっと笑いながら君に似合うのは漆黒だと言った。…なんか、嫌な感じの人。私は奴に背を向けた。

「君さぁ、もっとその力を求めてる人んとこで使いなよ」
「…は?この力を、求めてる人…?」
「そうそう。君だけを必要としてる人、すぐに現れるよ」

背中から嫌な予感がじわりと伝う。でもそれと同時に奴の発した甘い一言に胸が疼いた。…私を、私だけを必要としてくれる人………。そういえばなんでルゴニス先生は私を見つけ出したのだろうか、もしかしてアルバフィカを独りにしないためであってアルバフィカのためであって私じゃなくてもよくてただアルバフィカのためでアルバフィカのためだけ…?!

「いいねぇ〜ぐるぐるぐるぐる混ざってる…!」

三日月が落ちてきそうな夜の出来事。不信感だけが募り、私は奴、メフィストフェレスと出会ったことは冥闘士になってから漸く思い出したのだった。

0723