私は沢山の屍の倒れている花畑の中に居た。美しく色鮮やかな花たち、でもその間に倒れ込んでいる人や動物は冷たく、動いていない。虫すら居ないこの花畑に、生きているのは私だけ。ただ、沢山綺麗な花があるから、村でそれを売ろう、って…連れてきた、だけなのに…。座り込むと赤い花が鼻先にあった。ふわりと柔らかく甘い香りが擽る。…なぜ?どうして?皆は死んじゃったの?私だけ生きてるの?

「おや、この毒花の中生きている者が居るとは思わなかったな」

急に聞こえてきた声に振り返ると1人の男が立っていた。背中には大きな箱を背負って、顔は笑みすらうかがえる。

「私は聖闘士のルゴニス、君は?」
「……なんでここで、生きてんの?」
「私には耐毒体質があるからな…君もそうじゃないか」

そう言われて漸く死んでない理由が分かった。毒が、私にだけ効かなかったんだ…。それからようやく親や兄弟、友達に知り合いが死んでもう会えないことを悟った。ぽろぽろと涙が零れる。でも知らない男の人の前だからと強がり両手で目許を強く擦った。その手をやんわり手袋をした手が遮った。

「そんなに擦ると腫れてしまうよ」
「うっさいな、あっちいけ!」
「それは無理だ。君には私と一緒に聖域に来てもらいたいからな」
「さん、くちゅあり?何それ…」

笑みを浮かべたまま彼は聖域は女神と共に愛と平和を守るために戦う聖闘士たちがいるところだと言った。その言葉を聞いて私は顔を思いっきり歪めた。…平和?なら私たちの村が隣街に焼かれて移住する羽目にはならなかった!私はこんな毒花なんて見つけることもなかった…。

「なんでそんなとこ行かなきゃいけないのよ!戦うなんてまっぴらよバカ!」
「だがこのままでは君は独りだ。そしてその耐毒体質を放っておくと更に人を死なせるぞ」
「!!?」

それは脅しのようでもあった。でも、自分のせいで人がまた死ぬ……それだけは嫌だ!

「…くそっ、覚えてろよお前!」
「私にはルゴニスという名があるのだが…まあいい。今度から先生と呼びなさい、君を鍛えるのは私だからね」

さいあく!私は怒りから拳を彼に向かって振り上げた。でもそれは空振りに終わり、私の身体は彼に抱き止められた。

「や、やめろ…!触んな!」
「ほらほら強がなくていいから。…独りじゃないよ、私がいる」

そんな優しい言葉、初対面の私にかけるものなの…?ほんっと、変なやつ…。ルゴニス先生の温かさに包まれる感覚の中、私は意識を落とした。


0602