私は聖域に近い森を駆けぬけながら冥衣を着た自分の身体をそっと抱きしめた。本来ならラダマンティス様の配下としてハーデス様の城で待機していなければならない。だが私はこの機会を逃すわけにはいかなかった。彼と、私の決着をつけるために。…本当は怖い、ハーデス様に絶対な忠誠を誓うあのラダマンティス様の命を破ることは厳しい懲罰を食らうことも同然。あのお方は、そういう方だ。震えが漸く収まり私は気配と小宇宙を出来るだけ抑えてミーノス様の部隊の後を追いかけた。

聖域に続く道を暫く走ると目に鮮やかな赤が写った。鼻先を擽る懐かしい匂い。――――薔薇。

「バ…バカな…!聖域へ行く道全てを真っ赤なバラが覆っている…!!」
「ふん!バカめ!!バラの棘で行く手を遮ろうというのか」
「冥衣を着た我らにそんなものが通用するか!!」

薔薇の敷き詰められた道へ飛び込み先を進もうとする彼らは足を地に付けた瞬間身体に異変を感じた。ぐっ、と苦しむ声、膝が震え口からは鮮血が溢れる。それから倒れ込むのに時間はかからなかった。…流石、彼の毒薔薇は凄く強力だ。私は前に進む。漸く追いついたのだ。

「これは…」
呟くミーノス様の横に行く。

「これ以上踏み入らないほうがよろしいですよミーノス様。これは魔宮薔薇、しかもとびきり強力なものです。香気を吸っただけで死に至ります」
「ラダマンティスの配下の者がなぜここにいるのです―――地暗星、ディープのカレン」

私は笑みを零した。ふと視線に気付く。どうやらお出ましのようだ。数年ぶりの再会、といこうじゃないか。

「まぁいいじゃないですか。それよりこの舞台には仕掛け人がいるようです」

薔薇の向こうに足を組み優雅さを見せる黄金の聖闘士。閉ざされていた瞳が開き青空色に薔薇を写す。

「よくきた冥闘士ども。私はアルバフィカ、魚座の黄金聖闘士アルバフィカ」
「魚座の黄金聖闘士……アルバフィカだと…?」

私は地に降り立った彼を見て身体が震えるほど歓喜を覚えた。嗚呼なんて美しいんだろう、昔を思い出す…っ。彼に向かった冥闘士がロイヤルデモンローズで倒されるのをミーノス様と見ながら私は昔を懐古した。私と毒薔薇と、ルゴニス先生とアルバフィカ…。


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