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青年は、チェス盤を見つめぷるぷると震える幼い少女を見て、無表情に「詰めが甘い」と言う。


「チェックメイトだ」
「……っ」


少女は悔しそうにぎゅぅぅと痛いほど唇を噛み、負けん気を隠しもせずキッと青年を睨みつける。


「……もういっかいよ……!」
「残念だな。勝負は一回だけ、と言ったはずだ」
「うううああああ!!!みれいいいいい!!!」


少女は瞳に涙を浮かべながら執事に抱きつく。執事は困った顔を浮かべ「手加減無しのカズマ様に勝てるわけがないでしょう?」と少女を諌める。


「でんかはおとなげない! あやめがせっかく相手してあげてるのに!」
「手加減無しで良いと言ったのはお前だ。まったく……偉そうに」
「申し訳ありませんカズマ様……お嬢様、口の利き方には……」


少女は叱る執事を他所に「……っ次はあやめがぜったいかつから!」と青年に向かってあっかんべーをし部屋を出ていった。


「あやめ様! ……申し訳ありません、カズマ様……主人はカズマ様が相手してくださって嬉しかったのですが、どうにもチェスや勝負事になると負けん気が強く…」
「良い。それなりに楽しめた」


執事に無表情に言う青年の心内は掴めなかった。だが、待ち時間にへそ曲がりの少女に対して、まだ子どもと思わず相手にしてくれたことに、嬉しさを感じる。


「ありがとうございます。旦那様がもうすぐお着きになりますので、お待ちください」
「ああ。……1つ」


青年はコーヒーをすすりながらなんてことなく言う。


「なんでしょう」
「筋は良い。調子乗るな、とあの娘に。あと"殿下"と呼ぶなと」
「承りました」


美嶺は微笑を浮かべる。「それなりに楽しめた」というのは本心からの言葉らしい。もしかしたら、再戦も近いのかもしれない。


それはどうなるか分からないが、次にまた屋敷に青年が訪れたら、少女は喜ぶだろう、と執事は予想した。




∴わがまま姫と、とある青年
(……またきても良いんだからね)(気が向いたらな)






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