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▼ 孤独かくれ鬼




 俺には甘党同盟の知り合いがいる。
 アイツがいると、普段入れなかった店に入れるから、わりと重宝している。だが、それなりにリスクはある。昨日だって、途中で「殺してやろうか」と言いたげな目で見下してきたヤツがアイツを連れていったからな。
 あれが、恋人というらしい。
 俺には、よくわからない。

 頭を占めるのは、目の前の甘いケーキではなく、大切な妹の血にまみれた姿だった。ゆっくりと笑みを浮かべて俺に歩み寄ったあの姿だけは、どんなに年をとろうが忘れねぇだろう。
 だけど、何があろうとたった一人の可愛い妹だった。唯一の、繋がりだったんだ。


「陸、またこんなところでボンヤリしているの?」


 茶髪がオカマを連れていった少しくらい経った位か、アイツは目の前に現れた。
 コイツ、花鳥千歳さえ殺れば俺は殺人を犯したことになる。妹に、自由を与えてやれる。


「今日であったが百年目……です! 今日こそ地べたに顔を這いつくばらせてガブッ!!」
「落ち着きなさい、陸。今日は言美も居ないし、変に事を荒くしたくないのよ」


 じゃあ、何で机に俺の顔を強打させる必要があんだよクソアマがぁ……!!
 顔を上げたくても、花鳥の腕力か握力かしらねぇがあげられねぇ。つくづくこの女が女じゃねぇんじゃって思っちまう。
 流石、極道の女って所か……!!


「ここは肌に合わないわね。でも、私達、恋人同士に見られているかもしれないわ」
「っんなわけあるかぁ!! テメーと恋人なんてぜってーいっ」
「敬語は?」
「っ……あり得ねぇっですよーー!!」


 何でコイツは敬語を強制したがるんだ。俺が可笑しいだけなのか。日本がイタリアに比べて厳しいだけなのか!? あああああわかんねぇ! 意味わかんねぇ!!
 せっかく気分を紛らわす為にケーキを食いに来たのに、何でイライラしなきゃいけねーんだよ!?


「あり得ないかしら?」
「は?」
「そんなに、私と貴方が恋人であることがあり得ない?」


 ガタリと、花鳥が向かいのイスから立ち上がる。腕の力が弱まって、顔を素早く上げれば鼻先に花鳥の顔があった。


「う、ぁああああああ!? てめっよるなっ! あだぁっ!!」
「陸って、本当に純粋よね」
「ああああああ!! のしかかるなっ! のけ!! このっ!」


 クスクスと笑う花鳥が、ペタリと仰向けにイスごとこけた俺の胸に座り込んだ。それだけで万死に値する。それ以上にコイツには貞操概念がないのか心配になる。日本はえらく女は謙虚で旦那にしか肌をみせねぇ……ん? でも花鳥の肌は見えてって俺は何を考えてんだふざけんな死ね!
 そうこう自問自答する間に、距離を詰められていた。


「陸。これなら恋人同士に見えるかしら?」
「それはただの痴女だアホが!!」
「あら、そんな難しい言葉知っていたのね」
「――――ッ!!」


 やべぇ、今コイツを押し倒してナイフを首に突き立ててぇ。
 身体中がピクピクと痙攣しはじめた瞬間、口に何かを押し込められた。口に充満する甘いクリームに、柔らかい何か。そして、睫毛がぶつかる程に近い花鳥の顔。

 ゆっくりと、花鳥が俺から離れていく。そして俺から離れたアイツはクスリと意地が悪そうに笑みを浮かべて、花鳥自身の唇に人差し指を当てて、呟いた。


「陸のファーストキス、頂いたわ」


 恋人らしく、ね。なんてほざいてアイツは背を向ける。
 はっ、ハハハハハ……いい度胸してんじゃねぇか。あの女狐が……!!
 唇を服の裾でぬぐうにも裾に尽くし、舌で舐めたくもない。仕方ないので余ったケーキを素手で掴んで口に放り込んだ。


 そして懐からジャックナイフを取り出して、アイツの方向へて地面を蹴る。


「っ花鳥ぉおおおおおお!! まじでほんきでくそが死ねこのやろぉおおおおおおおおおお!!」
「日本語、可笑しいわよ」


 ケラケラと笑ったヤツが、鉛を取り出し、何時も通りに俺に致命傷を与えない人体の部位に銃先を向ける。
 ――ああ、だからコイツがだいっ嫌いなんだ。
 変に俺に気を遣うくせに、俺の我が侭に付き合って、わざと憎まれ役をかう。
 自分の気持ちは隠したまま、普通に生きてたらあり得ないものを笑顔に隠して持ち続けている。

 それがとにかく胸くそわりぃ!!


「今日こそ、今日こそ殺してやるですよ!」
「ふふ、かかってきなさい」


 わかってる。本当はわかってる。だけど、お前を殺そうとするのは今更止められねぇ。
 だけど、一つ分かったことはある。絶対に口にはしない、本当のお前。

 本当は、凄い優しいやつだってわかってんですよ……チクショーッ……!!



end




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