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私はもう一度二人の姿を見る。
女の子──ミリアムと呼ばれていた──は明らかに16歳くらい。
でも、その男の人──アルバートさんと呼ばれていた──は、30代でしょ!?
「アルバートさん、来てくれたんですかっ?」
「ちょっとな……急な仕事で、今日は遅くなるって言いに来ただけなんだ」
「そうなんですか……残念です」
ミリアムがしゅんとすると、アルバートさんも少しだけ悲しそうな顔をした。
……ちょっと待って?
じゃあ、何?一緒に住んでるってこと!?
二人のやりとりを、他のお客さんはニヤニヤと彼を見ていたけど、キッチンの奥から聞こえた大きな咳払いに、みんなが一斉に彼から視線をはずした。
しかし、私は二人から目が離せない。
だって、だって──恋人、って!
「なるべく早く帰れるようにするから」
「……はい!待ってます!」
ミリアムはさっきよりも明るい笑みを浮かべた。
するとアルバートさんは、少し考えるようにして、
「ミリアム」
と囁いた。
小さな声だったからミリアムもよく聞こえなかったようで、首をかしげる。
するとアルバートさんは、ミリアムの頭に、そっと手を伸ばした。
そして、優しくミリアムのことを撫でる。
「……仕事、頑張れよ」
「……はい!」
さっきまで無表情だったアルバートさんは、その瞬間だけ、本当にその一瞬だけ、優しい微笑みを浮かべていた。
それを見て、確信する。
あぁ……この二人は、本当に恋人同士なんだ……。
アルバートさんはすぐに手を離し、ミリアムがキッチンに戻るのを見送っていた。
するとすぐ店を出た。本当にそれだけだったようだ。
すごいものを、見た気がする。
だって、だって、あんな……。
「お客さん、お待たせしました!ミートソースパスタです!」
突然した声に顔をあげると、ミリアムがにこにこした顔で立っていた。
私はとっさに彼女の腕を掴む。
「さっきの人、あなたの恋人って本当!?」
ミリアムは、驚いたようで口をポカンと開けたあと、恥ずかしそうに頬を赤らめてこくりと頷いた。
「どうやって付き合うようになったの!?」
「どうやって……?えぇと……」
「私、あなたにいろいろ聞きたいことがあるの!今時間大丈夫!?」
私が言うと、ミリアムは困ったようにキッチンへと目を向ける。
オッケーが貰えたのだろう。キッチンに向かってペコリとお辞儀をして、ミリアムは私の向かい側に腰かけた。
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