thanks | ナノ


▼ 

******************



明るい、満月の夜のことだった。


宮に歴史書の編纂人として仕える文官・真人(まさのひと)は僅かな燈台の明かりと月の光とを頼りに書き物をしていた。


記しているのは、この宮の東に住まう、幹也(みきのなり)様のことだった。


もちろん、表の歴史書に記すためではない。


この平安の時代、女は男の影であり、道具のように扱われていた。


幹也様も、その例に漏れない。


まだ年端もいかない帝の下に政略結婚の道具として入内させられ、広い宮の東にある小さな壷でいつも息苦しそうに佇んでいる。


……けれど、真人はそんな幹也様のことが好きだった。


言葉を交わしたのはたった一度だけ。


文官仲間の妬みを買い、陰湿ないじめに遭っていた真人を幹也様が助けてくれた、あのたった一度だけだ。


「くだらないことをしているくらいなら、蹴鞠でもしたほうがよほど楽しいぞ。そこのお前、少し蹴ってみろ」



prev / next
(17/30)

[ bookmark/back/top ]




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -