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けれど、高校で同じ生徒会の役員になるまで、カズマはリンと話をしたことはなかった。
カズマの方は一方的にリンを知ってはいたが、リンは自分を全く知らなかっただろう。
こういう間柄の結婚を、普通は「政略結婚」と言うのかもしれない。
しかし、カズマはそんなつもりは全くなかった。
カズマは、リンのことが好きだった。
今、リンは少しくせのある髪を後ろでまとめて、制服のセーラー服をきちんと着ている。
女らしくて、けれどどこか意志の強さも感じる佇まい。
そういうどこまでも女なのに、ただ誰かに守られるだけでは嫌だ、と言っているその目の強さがカズマには愛しく感じられた。
だから、この関係は誰かが決めたことではなく、自分の意思だ。
「カズマ先輩、卒業 おめでとうございます。……先輩が卒業したら、もう学校では会えないですよね。……仕方ないことなんですけど、やっぱり……その……」
リンは何か言おうとしていたが、カズマはそれを遮るように「リン」と静かに目の前の婚約者の名前を呼んだ。
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(10/30)