▼ So dear to your lie
「おい」
「……」
「……おい」
「………何ですか」
夜の寝室。
ベッドの端に座り、そっぽを向く私の背に、彼が短く声をかける。
「いつまで拗ねてるつもりだ」
「……拗ねてませんっ!怒ってるんです!」
「……怒ることじゃないだろうが」
「なっ…!あっ…あんなっ……皆の前で……あんなこと……!怒るに決まってます!」
「いつもしてることだ」
「皆の前ではしてませんっ!」
今日、王宮で開かれた晩餐会でのことだ。彼はあろうことか――皆が見ている前で私に、キスをしたのだ。
「お前が身の程知らずの男共に言い寄られていたからだろうが。誰がお前の夫か、奴らに教えてやっただけだ」
「だからって……!あんなっ」
「何だ」
「あんな…の、恥ずかしすぎます……!変なやきもちであんなことするの、やめてくださいっ!私は……カズマ様以外のものになることなんて絶対ないのに…っ」
私がそう言った瞬間、背後で彼がふっと笑う声がした。
「なっ!なんで笑うんですか!」
私は思わず振り返り、彼に抗議する。
彼は口元を手で覆い、笑いをこらえる表情だ。
「いや、可愛いと思っただけだ」
「……っ!は、反省する気、あるんですかっ!?」
私は、勝手に熱くなる頬を押さえながら叫ぶ。
全く怒りが通じてないみたいで、悔しすぎる。私ばっかり恥ずかしくなったり怒ったり――ずるい。
私が振り返った瞬間を逃さず、彼が私の手に触れた。
「反省してる」
「う、嘘っ!そうやってからかって……カズマ様なんか嫌いっ!」
意地になって勢いよく彼の手を払いのける。
彼は一瞬少しだけ目を見開き、手をひっこめた。
「嫌いか」
「………嫌い、です」
私は俯いて小さくつぶやく。
「本当か」
彼がそんな私をのぞきこんだ。
無表情に、問う。
「………うそ、です」
「では、本当は?」
「本当は……、」
彼がいたずらっぽく笑ってこちらを見つめる。
ああ、私はこの笑顔が、このひとが、たまらなく――
「……だいすき、です」
あっさりと白状させられて、顔をまっかにするしかできない私を、彼が愛おしげな表情で見つめた。
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