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「……触っていいか?」
「えっ……?」
突然の言葉に私は目を丸くした。
触るって、なに……?
わからないまま、答える言葉が見つからない私が言葉を失っていると、彼の大きな手が私の手首を掴み そのままベッドの上に押し倒される。
白い天井が見えた一瞬あとに、視界の中が彼だけになるほど近くに彼の顔が私の顔に近づいた。
私が驚いて思わず目を閉じると、少し冷たい彼の唇が私の唇に重なる。
「……っン……」
彼とキスをするのは初めてじゃないはずなのに、何度しても 慣れない。
心臓が壊れてしまうんじゃないか、というくらい速くて……息の仕方すら わからなくなってしまう。
私が唇を固く閉じていると、彼の長い指がそっと 私の下唇のあたりを掴んだ。
グイ、と引っ張られて ポカンと開いた口に彼の濡れた舌が入ってくる。
「……ン ッ……」
逃げる舌を舌でなぞられたせいで、私の背中はビクンと跳ねる。
そんな私に彼はフッ、と笑みを漏らした。
「……感じてるのか?」
言われてもともと速かった心臓がもっと、もっと速くなる。
図星をさされて 動揺した私は慌てて「……っ違……!」と否定するけれど、彼はそんな私の言葉はちっとも信じていないようだった。
彼から逃げるように身をよじった私の胸に触れると、そっと敏感な部分を擦る。
「……やっ……!」
言いながら、私のうそつき と思う。
ほんとうは嫌じゃない。……全然、嫌じゃないの。
でも、恥ずかしくて どうしていいかわからないと、いつも思うことと反対の言葉が口から出てしまう。
私が目をうるませながら震えていると、彼の優しい声がした。
「……可愛い」
その言葉と同時に、彼の舌が目に滲んだ涙にそっと触れ、涙を舐め取った。
あまりのことに私は目を開けられないまま、彼のされるがままになる。
……こんなときですら可愛いこと ひとつ言えない私を、彼は「可愛い」と言ってくれる。
そのことが私の胸をいっぱいに満たした。
目を閉じたままの私に、彼が囁く。
「リン、こっち向け」
「……っや……」
言ってしまってから、「また言ってしまった」という後悔が頭を支配する。
でも、恥ずかしくて 恥ずかしくて どうしても……彼の顔を真っ直ぐに見られなかった。
どうしよう、という焦りに似た気持ちばかりが先立って、結局何も出来ないまま震えていると、彼の唇が私の耳元に近づく。
……それはもう、彼の声と同時に漏れる息遣いが感じられるほどに。
「リン」
呼びかけられた声が近すぎて、私は言葉が出ない。
すると、彼の手が私の震える肩をそっと掴む。
「……こっち向け」
「……は……い……」
……少し、言葉は強引なのに 触れる手はどこまでも優しい。
すると、彼の瞼が僅かに伏せた。
……少し目を伏せている以外はいつもと変わらない表情の彼の顔が斜めに近づく。
私はやっと、自分も顎を傾けることを覚えて彼のキスに応える。
……いつもと変わらない、と思いながら触れた彼の背中は 少し汗ばんでいて 私は少し嬉しくなる。
彼も、ほんの少しは……私の半分 くらいはドキドキしているのかな。
そんなことを考えながら、彼の腕の強さに私はカラダを預けることにした。
■END■
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