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「でも、リンさんの気持ち、少し分かるかも」
「え?」
「わたしの彼氏あんまり好きとか言わないんです。ツンツンしててさらにへたれだから!」
「ツンツン?へたれ?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。「ようは素直じゃないんです」と言われ納得する。
「わたしも……気持ちを言葉にしないから、かもしれないですけど」
「気持ちを言葉に?」
「恥ずかしくて…付き合ってても"好き"なんて中々言えないですよ!」
「あ……」
藍ちゃんの言葉で気づいた。わたしは、彼に一度でも「好き」と伝えたことがあっただろうか? 突然の結婚で、彼を好きかも分からず、宙ぶらりんだった。でも……わたしは彼が……。
突然、バタン、と乱暴な音がしてビックリする。それは扉が開く音で、一人の小柄な少年が立っていた。恐らく乱暴に開けたのは、この小柄な少年だろう。
「ここに居たのかよ、藍」
少年は藍ちゃんに不機嫌に話しかける。どうやらこの少年が藍ちゃんの「彼」らしい。
「え、どうしたの? 一流くん」
「中々帰って来ねえから……心配なんてしてねえけど、見にきたんだよ」
「……ふふふ、そっか」
「何笑ってんだよ!」
「なんでもないよ」
あ、かわいいな、と思った。一流くん、と呼ばれた少年は藍ちゃんを睨むけど、かすかに頬が染まっていて誤魔化しにそっぽを向く。
そして、ふっと私に目を止めた。
「つーか、アンタ誰?」
「一流くん!初対面の人にアンタはないでしょ」
「はいはい……うるせえ」
「うるせえって……もう!」
藍ちゃんにわたしは良いから、と言い「リンと言います。あやめさんに用があって会いに来ました」と挨拶する。
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