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美嶺さんに通されたのは客室の一室だった。用事が済むまでお待ちください、と言われたけれど、どのくらいかかるのだろう?
あやめさんはカズマさんを「殿下」と呼び、親しげだった。それは、知り合いの娘だろうしある程度は仲が良いのだろうけど、なんだかお似合いに見えて……自分に自信を無くしてしまう。
(カズマさんはああいう少し強引で引っ張ってくれる人が好きなんじゃ……)
ネガティブ思考がぶり返し鬱々する。マリッジブルーだろうか。そりゃ、彼には慣れない部分もあるけど……彼の忙しさで結婚式だって挙げれなかったけれど、それでもわたしは彼が好きで結婚したのに。
――不安になる。
突然、ドーン!と扉が開き、ビックリして背筋がのびた。
「あやめ!ここ!?」
「え……」
「あ……す、すみません!間違えました!」
うわああ!! となぜかドレス姿の子が扉を開けて慌てて閉めた。なぜ、ドレス……?
「あのー、」
少し気になって、扉越しにまだ居るその子に話しかけて見た。
「え!?怪しいものじゃないですよ!この格好はこの家の友達が無理矢理……!」
「ふふふ、別に変だとは思ってませんよ」
むしろ、可愛いと思った。その子は、おずおずと扉を少し開けてこちら窺う。
「あやめの、お客さんですか……?」
「はい。わたしの夫があやめさんと知り合いなんです。もし良かったら、少し話し相手になってもらえませんか……?」
暇を持て余しているところで、誰かと話したかった。一人だと鬱々として、考えたくないことを考えてしまうし。
「わたしでよければ……あの、お願いがあるんですけど……」
「なんですか!」
「ドレスの……背中のチャック……降ろしてもらえませんか……」
予想もしなかった「お願い」に面を食らってすぐ、笑いながら了承した。
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