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ハッとして慌ててシートベルトを外し、車を降りようとしたら、助手席の扉が開き「慌てなくて良い」と彼が手を貸してエスコートしてくれる。
「す、すみませっ……きゃっ」
慌てて降りようとしたら足を縺れさせて、彼に抱きつく形になってしまった。
「……バカ。慌てなくて良いと言っただろう」
「ごっ、ごめんなさい」
かぁっと頬を赤くし彼から離れる。は、はずかしい……。何も言わず歩き出した彼に慌ててついていき、「あの、知り合いの娘さんって……?」と今さら聞く。
「雪白財閥の一人娘だ」
「雪白財閥……?」
「貿易で成功している財閥の一つだ。懇意にさせてもらっている」
「その娘さんがこの立派なお屋敷に住んでいるんですか……?」
彼がインターホンを押し、挨拶をすると自動で扉が開いた。扉が開いた先は、広い庭。色とりどりの薔薇の花が咲いている。
「きれい……」
「相変わらず手入れがされている」
触るなよ、と注意され「さすがのわたしも薔薇にトゲがあることくらい知ってます!」とむくれる。
「それはそうだろうが、怪我をされては困るからな」
「カズマさん!」
彼がバカにしているのが分かってキッと睨む。そんなに間は抜けてません!
「そうむくれるな。着いたぞ」
「カズマさんが――」
悪いんじゃないですか、と言おうとしたが玄関先に着き口を閉じる。リゴーンと、チャイムを鳴らすとすぐに扉が開いた。
「どうぞ、お待ちしておりました」
にこりと笑いながら扉を開けたのは、長い黒髪を一本で結んだ執事さん。金の瞳が印象的だった。
「カズマ様、遠いところわざわざ――」
「堅苦しい挨拶は良い。近くに来たついでに寄っただけだ。むしろ、突然来訪してすまない」
「いえ、お嬢様が喜びます」
突然の来訪にも関わらずにこやかに対応してくれる執事さんに好感を持った。
「こっちは妻のリンだ」
「ご結婚おめでとうございます。リン様ですね。私は雪白財閥の一人娘・雪白あやめさまの専属執事、美嶺と申します」
「カズマの妻、リンです。ありがとうございます」
美嶺さん、と頭の中で呟き外見に似合った名前だなあと感じる。
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