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『我が主を非難する前に己の未熟さを恥よ、人の子』
「ほらね、この通りとっても怒っている」
「これが…精霊…」
「すごい…」
カズマとリンは宙に浮かぶ、人の形を成した全身水色の少し透き通った精霊を
ため息を飲んで見つめる。
怒りを携えた精霊はカズマからつい、と顔を逸らすとそれまでとはうって変わって
柔らかい笑みを作ってリンの傍へ近づく。
初めて見るものに驚いたリンはやや緊張して身を引いたが精霊は気を悪くする事も無く
リンの頬へそっと手を添えた。
水の精霊と言うし、体も青かったので冷たいものだと思っていたら
意外にも精霊の体温はほのかに暖かみがあってリンは体の緊張を少し解く。
『私たちは常に自然とともに或るものです。貴女が心を揺さぶられれば風が鳴きます。
貴女が悲しめば水が寄り添います。あの人の子の頭を冷やしてやりたいのなら私が力を貸しましょう』
「だから、さっきから貸しちゃだめだって言ってるのに」
『アガタにはこの子がどれだけ寂しい思いをしているのか分からないのです』
「あの、私、わたしはできれば、フォレガータ女王陛下とカズマ様と…アガタ陛下と楽しくお話しできれば…」
『………』
「それがリン王女の願いならばそうさせていただこう。私たちの話でなにかわからなかったり、質問があるなら遠慮無く申し出て欲しい。それでよろしいか?カズマ王子」
「私はかまいません」
「決まりだな。お前も中へ入れアガタ」
「俺もあんたたちの戦術なんてわかんないんですけど…」
「だから説明すると言っている。その紅茶を持って来いよ」
「はいはい…」
「良かったねお姫様」
「はい…!ありがとうございます…ええと貴女も…名前を教えてもらえますか?」
『私たちには名前はありません。名前は』
「!消えた」
「君の魔力の限界だよ。王子様はまだもう少し見られるかな。
精霊を見られたのは君たちのもともと持ってる魔力を底上げしていたからで、
君よりも王子様の方がほんの少し魔力が大きいみたいだね。
ちなみにフォレガータは魔力のかけらも無い」
「………」
「カズマ様?」
「なんでもない。行こう」
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