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――官舎
寝室で俺は彼女を見上げていた。作者はつくづく、このパターンしか書けないらしいな。
俺を見下げる彼女の目は赤い。眉間にシワを寄せ、一言。
「嫉妬した」
「……」
「先輩が、他の女に見向きもしないと信じていた。でも、ああも見せつけられては、自信が揺らいだ」
「事故だったんだ、謝る。今夜はどうしたって良い。どんなプレイだって受け入れる。好きにしていいから、許してくれ」
「えっそんな!ごくっ……」
「生唾を飲むな」
彼女は無言でネクタイを引き抜き、第二ボタンまで手にかけたあと、ぎゅっと抱きつかれた。
「やっぱり……しない」
「は……?」
「このまま、今日は一緒に寝るだけで良い」
そう言って、しがみついてくる彼女に驚く。
「い、いいのか? 本当に、今日は何をしても怒らないぞ」
「いい。それに、すごく……ねむいんだ」
「ああ、」
酒か、薬のせいかと思う。ただ、彼女に一つ行っておきたいと思う。
「カヤ、一つ言っておきたいんだが」
「ん……」
「俺は、お前以外の女にもう興奮を覚えないし、愛しているのはお前一人だ」
「!」
溺れきっているのに、抜け出せるわけがないんだ。青いドレスを着た彼女に押し倒されて、ドキッではなく甘い痺れのような電流が身体に走ったのは間違いない。やらない、と言われたときはがっかりとしたのも、事実。
「いま正直、抱きたい」
「ふふふ、なんだかあべこべだ」
「……そうだな」
これじゃまったく逆だ。いつもなら彼女が抱きたいと迫ってくるのに。もちろん、それを嬉しいと思っているが。
カズマの奥方が「どうやって誘えば良いか」なんて言っていたけれど、カズマなら奥方のその努力を呆れはしようが笑わないし、アイツはそれを可愛いと言って喜ぶだろう。
男なんてそんなものだ。惚れた女には、世界一弱い。
「うれしい、せんぱ……い」
彼女は破顔しそのまま幸せそうに寝落ちした。……酒で限界が来たらしい。俺、逆に我慢しなきゃいけないのか今日。
「なんてこった……まあ良いか」
幸せそうに眠る彼女を抱き寄せ額にキスし、俺も寝た。
まさか次の日酒で記憶を無くした彼女が、「昨日何があったんだ!どうしてわたしは先輩に抱きつきながら襲ってないんだ!?第2ボタンまで手にかけて!?うわあああ!!!おしいことしたああああ!!!」と言われるのはまた別の話。
そんなカヤにホッとしたのも、彼女には秘密だ。
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(8/9)