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「……カズマ様、ごめんなさい」
「謝らなくていいと言ってる」
「だけど私、たぶんまだ……おかしいです」
「……」
「そんな自分がカズマ様にどう映ってるんだろうって考えたら、こわいです……」
「……お前は、」
私に伸ばされかけた彼の手が、ぎりぎりのところで止まった。
「俺は、お前がどうなろうと、可愛くて仕方がないんだ。余計な心配はするな」
脱ぎ捨てられた私のワンピースをこちらに渡しながら、彼はそれだけ言うと、立ち上がった。
「水でも浴びて頭を冷やしてくる。お前は身体がきついだろう、寝ていろ」
そう言って背中を向けて歩き出す彼。
「はい、カズマ様……」
彼がくれる言葉のひとつひとつが、愛しくてしかたない。
色気なんてなくて、それが嫌で悪あがきをして、結局とんでもなく恥ずかしいことばかりをしてしまった私を――彼は可愛くて仕方がないと、あっさり言い切ってくれる。
薬のせいでタガが外れた私の、はしたないくらいの欲求に、彼の全部で応えてくれる。
――だから私は、彼が『必要ない』と言っても、もっともっと、好きになってほしいと、懲りもせずに思ってしまうのだろう。
(嫌じゃない、って……言えばよかった)
きっと彼が戻って来る頃には、薬の効果も余韻も消え去っているから――私は少しだけ、後悔した。
end
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