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それから、

「汚れたりなんか、しません」


彼はあのとき、無理やり私を引きはがしたけれど、汚れるなんてそんなこと私はこれっぽっちも思わなかった。

優しさなのだとはわかっているけれど。


「カズマ様と同じです。私だって、カズマ様に触って、汚れるなんてこと、ないです」

「……」

「もし汚れるんだとしても――それなら私は汚れていいです。汚れたいです」


きっぱりと言うと、彼の方が私から目を逸らした。

「お前はおかしくなっていてもいなくても、タチが悪い……」

「え、あの……」

「もういい加減にしてくれ。また我慢がきかなくなる」

「あっ……えっ!?」


私はただ、彼にそんな風に思ってほしくなくて――だけど、また何か恥ずかしいことを言ってしまったのだろうか。


「とにかく、あんなことはもうしなくていい」

「で、でも、私、カズマ様に…、」

言いかけた私の髪を、彼がくしゃりと掻き乱した。

「いつものお前で十分だから――これ以上は、困る」

「え、と……」


私が何を言おうとしたか、通じていたみたいだった。


だけど、私は、困ってほしい。

今日みたいに、余裕なんか全部なくして、求めてほしい。

私が彼に溺れ切っているように、彼にも夢中になってほしい。


いつも、彼がいろいろなものを抑えて触れてくれていることは――大事に触れてくれていることは、なんとなくわかっていた。

すごく、嬉しい。

愛されているのだと、実感する。


それでも……



ああ、やっぱりまだ、薬が残っているに違いない。

彼がそんな風になってしまったら、困ってしまうのはきっと私の方なのに。

それでも、彼と一緒におかしくなってしまいたいと願っている私がいて、目の前の彼を――そんな目で見ている私がいて。

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(16/22)

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