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『……どうして欲しい?お前の為なら、何だってしてやる』
いつもなら、私を恥ずかしくさせようとする彼の言葉に、ただ首を振るだけしかできないのに。
今日はもう、それがとびきりの愛の言葉のように全身に響いて――
『カズマさまが……ほしいです……!』
「い、いやああああああああっ!!!!」
「わかったから落ち着け、リン」
「だって私……あんな、恥ずかしいこと言っ……あっ!」
さらにそのあと、とんでもなく恥ずかしいことを――他でもない彼にされたのだと思い出す。
今、顔をしかめてこちらを見ている彼に――
「お前が嫌がるようなことはしないと決めていたのに、悪かった」
彼は自分の髪をぐしゃりと掻き上げてますます苦々しい表情になった。
違う。
嫌がることだなんて。
そんなこと、ない。
だけど『嫌じゃなかった』なんて言ったら――本当にはしたないと思われてしまいそうで、言えなかった。
だって、あんな恥ずかしいこと――
『……嫌では、ないのだろう?』
あのときそう尋ねた彼も、きっと冷静ではなくて――その問いかけに、何よりも身体が正直に答えてしまったことを、彼が忘れていてくれたらいいと願った。
「違うんです……私が、悪かったんです……だって……」
「お前は悪くない。俺が理性を保てなかっただけだ」
「……そ、それは、私だって」
とにかく彼に触っていてほしくて、その熱と快楽にひたすら溺れていた私は――理性なんてかけらも残してはいなかった。
きっと薬のせい。だけど、いつもはとても出せないけれど、あれは確かに私自身の感情で、欲望だった。
だからとんでもなく情けなくて、恥ずかしい。
「――ひとつだけ、聞きたい。あれは誰の入れ知恵だ」
彼の言葉に、私は我に返った。
「あれ?」
「……誰に教わった、あんなこと」
「……!」
彼が尋ねているのは、私が彼を『気持ちよくしたい』と――思って、したこと――たぶんそのことだ。
「あ、あれは……教わったというか、聞いただけというか……えと……」
「あんなことはしなくていい。俺の方がおかしくなる。――それにお前を汚したくない」
彼の頬を伝う汗と、見たこともないくらい余裕をなくしていたその表情を、思い出すだけで――私はまた、身体の奥が熱くなってしまいそうだった。
まだ、薬が残っているのかもしれない。
おかしくなってほしい、そんなことを思ってしまったから。
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