thanks | ナノ


▼ 

「……おい、くま?」
「ただいま戻りました……」


俺が呟くのと、妻が帰ってきたのは同時だった。
まだ濡れた髪をタオルで拭きながら、火照って赤い顔をキョロキョロとさせる。


「あれ?カズマ様……くまちゃんは?」
「……あれは、」


消えた。とは言えなかった。
俺は少し考えて、


「持ち主が見つかったらしいからメイドに預けた」


と言った。


「なんだ、そうだったんですね……よかったぁ」


本当に安心しきった顔で彼女は笑った。


“触れ合うことで、愛情を”

“それすらなくなったら”

──彼女に、触れることができなくなったら。


いろんな言葉が頭に溢れて、俺は思わず彼女を後ろから抱き締めていた。


「えっ?あ、あの、カ、ズマ様……?」


湯上がりの、いい匂いが鼻を掠める。
違う、それよりも。


「……あたたかい」


俺がそう言うと、彼女はしばらくして笑った。


「だって……お風呂上がりですし」
「そうじゃない……だが、あたたかい」


俺の言葉に困惑した彼女は、少し考えて、俺の腕にそっと手を置いた。


「はい、あたたかいです。カズマ様」


そう言って微笑む彼女の耳元で、俺はとある言葉を囁いた。

彼女は顔を真っ赤にして、小さく頷いたのだった。







このぬくもりを忘れないよう、何度も何度も上書きをして。


この肌に触れられなくなるなんてことにならないように。

強く強く──抱き締めていたいと思った。


-Fin-




prev / next
(7/7)

[ bookmark/back/top ]




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -