▼
俺が妻に尋ねると、彼女はキョトンとした顔で俺を見上げた。
すると、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げながら、背伸びをして俺の顔に触れる。
俺の前髪をそっとかきあげ、額に手をやった。
「熱は……ないみたいですね」
「おい」
「え?だって、カズマ様、おかしなことを言っていたから……。お疲れなのかと思って……ごめんなさい」
おかしなこと、だったのか。
まぁ、普通に考えればそうだ。
ぬいぐるみは喋るものではない。
どうやら疲れているようだ。
この仕事を終えたら少し休もう。
「ただ、このねぇちゃんは胸がねぇのが難点だな」
──……。
気のせいではないのがわかった。
そのくまは確かに……喋っている。
「おい、リン。そのいやらしいくまをおろせ」
「え?いやらしい?ど、どうしたんですかカズマ様……」
妻はひどく驚いている。
無理もないかもしれないが、俺は妻を愚弄する奴はくまでも許さない。
「なんだ、おめぇこの女にほの字かい?かー、よくもまぁこんな色気のない女捕まえたもんだ」
「黙れくま公が。それ以上何かを言ったら引き裂いて中身を出すぞ」
「へん、若造が偉そうに」
「わかった死にたいらしいな、待ってろ、今ただの布と綿に戻してやる」
「か、カズマ様!?なんてことを言うんですかくまちゃん相手に!」
妻は俺から離れるように後退りをした。
無論、くまは抱えたまま。
「ふっ……」
気のせいなのか。
表情がないはずのそのくまが、勝ち誇ったような笑みを浮かべたように見えたのは。
「カズマ様、やっぱり最近お仕事のしすぎだからお疲れなんですよ!そのお仕事終わったらお休みになってください。私、その間にくまちゃんだっこしながらお城のなか散歩して、持ち主を探してみますから」
そう言い残して妻は、とてとてと部屋を後にした。
くまは誰かに預けておけ、と言うきっかけを、あのくまのせいで逃してしまった。
prev / next
(3/7)