▼ 君のぬくもり
妻が、謎のぬいぐるみを抱えて俺のもとへやって来た。
「……なんだ、それは」
「わからないんですけど……中庭に落ちていたので、誰かの忘れ物かなって」
そう言うと、妻は細く白い腕でぎゅっとそのぬいぐるみを抱き締めた。
普通のテディベアだ。
首もとに赤いリボンが巻かれ、手足の付け根はボタンのようで、自由に動かせる仕組みだ。
「だからって、お前が抱えていなくてもいいんじゃないか。貸してみろ」
「あ、はい」
とりあえず、マリカにでも預けて持ち主を探させるか。
そう思って妻からそれを受け取ろうとすると。
「触るんじゃねぇ」
渋い声がした。
中年の男のような、父よりも年上なんじゃないかと思うような声だった。
「……何?」
侵入者か。
俺は辺りを見回すが、それらしき者は見当たらない。
俺はもう一度、そのぬいぐるみに目をやった。
「あー、あったけぇ」
この部屋には俺と彼女とユキしかいない。
あんな中年のような渋い声を出す人間は、何処にもいるはずがないのだ。
「やっぱり女の肌は滑らかでいいねぇ!」
俺は耳を疑った。
こんな発言を今、ここでするのは……。
「おい」
「はい、カズマ様」
「最近のぬいぐるみは……人語を話すのか」
prev / next
(2/7)