▼
「……どうした?」
鞄から大量の本と教科書とノートを取り出す私を見て、不思議そうな顔をする。
「どうしたって、勉強するの!勉強!」
“あとは、アルバートさんは私が勉強を頑張ってるとたまになでなでしてくれます!”
ミリアムはこう言っていた。
今度こそ、ヒトシさんはなでなでしてくれるはず。
私は本を開くふりをしてヒトシさんを見る。
するとヒトシさんは、帰ってきたばかりだというのに、車の鍵を手にして私に背を向けているところだった。
「……何してんの?」
「え?だって、勉強するんだろ?邪魔しちゃ悪いから、二時間くらい暇潰してこようと」
「なっ……!」
ヒトシさんは、鈍感を通り越しているんじゃないかとたまに思う。
何で、何でそうなるの!?
私は家を出ようとするヒトシさんの背中に、慌てて叫ぶ。
「ちょ──ヒトシさん!!」
こうなったら、最後の手段だ。
これだけは使いたくなかったけど、仕方ない。
「ヒトシさん……えっと……」
「ん?」
「……ヒトシさん、だ……だ……」
“あと……アルバートさんは、私がだいすきですって言うと、いっぱいなでなでしてくれます!”
とびっきりの笑顔でミリアムは言ったんだ。
あれが嘘なわけない。
だから、言うのよ、妃芽。
ヒトシさんに、だいすきですって──!
「だ……だっ……」
「だ?」
「〜〜〜っ、」
私は察しもしないヒトシさんに腹が立って、
「ひっ……ヒトシさんのダメ男ーーー!!!!」
恥ずかしいのを必死で誤魔化しながらそう叫んでいたのだった。
prev / next
(7/9)